第17話 ナイトメア・パニック

☆☆☆魔法分析


僕達は皆が寝静まった夜の学生寮を淡々と歩く。


しかし、こんなことをしても一向に被験者の亡霊というモノは現れたりしない。カノンは何を狙っているのだろうか。


廊下を道なりに歩き続ける。やがて行き止まりの壁が見えた。だがこの壁は魔力の気配が感じられる。これは行き止まりでないことを示しているとみていいだろう。


「え、この先は行き止まりですよカノン先輩」


オリビーは気付いていないか、この壁は複数の魔法障壁でカモフラージュされている。一般生徒達では道があると気付かないだろう。


「おや、その表情。ティエラリア君は気付いているようだね。流石だ」


「はい。カノン様。これは魔法障壁の一種ですね……『解除』……!」


僕が壁に触れて魔法を解除すると……


「え、ち、地下へ続く階段……嘘だ……嘘だ地下なんて聞いていないよ……絶対出る奴じゃん……うぅぅぅ……」


オリビーが震えていた。地下へ続く階段は目視で確認できないくらい真っ暗だ。


「ふふふ……そういうことだ。もう一度聞くよ二人共。ここを降りると無事は保証できないけど向かうのかい?」


「当然向かいます」「引き返しま、向かいます」


今引き返そうとしていただろう。素直に戻った方が良いのでは?


「そうかい。それでは……向かうよ」


カノンが先導して階段を下りていく。周囲は暗くなり目視で二メートル先の物が見渡せない。


「うぅぅぅ……大丈夫。ティアちゃんが隣にいる。ティアちゃんが隣にいる……」


長く感じた階段を降り終えると、固く閉ざされた扉があり複数の魔力を感じる。


「そうして開かずの扉に辿り着くわけだ。肝試しはこれで終わりだよ。よく耐えたねオリビエ君」


「うぅぅぅぅ……絶対何か出てくる。扉を開けたら出てくる奴だ……良かったぁ……これで帰れる……」


カノンは扉に手をかけるがピクリとも動かない。ドアノブにも魔法が施されていると見た。


「これは強固な魔法障壁ですね。解除には少々時間が掛かりそうですが……かなりち緻密に作られた魔法式です……」


僕がドアノブを握ると、無数の魔法が展開される。なるほど……集中しないと、全てを解析するのは難しそうだ……!


「え……ティエラリア君。ここは開かずの扉だよ、寮の構造上その先はないとされいるし、卒業生達も開いた前例はない……流石に私達三人で踏み入れるのは……危険な気がする」


「そうだよ。ティアちゃん! もう帰ろう! 絶対開けたらダメな奴だよ!」


「この魔法トラップはドアノブを握った瞬間と捻った瞬間。それぞれに違う魔法が展開されています。カノン様が解除するのに苦労した原因ですね。そして最後に引く瞬間のトラップ。恐らくとても不快な音が聞こえると思いますので注意してください。しかし良く作られていますね……僕ならば……(以下略)」


すると、二人は僕を見てポカーンとしていた。


「……ティエラリア君。ま、まさか、ここの扉の魔法を解析したというのかい……?」


僕がドアノブを握る。


「はい。これでもう扉開けて中に入れますよ。不快な音が出ますが」


「おっと……驚いたよ……そんなことあるんだね……」


「カノン先輩。ティアちゃんは魔法のことになると凄く饒舌になるんですよ……」


饒舌なのだろうか……


「それでは開けますね……」


魔法を全て解除し終えたので、扉を開くと……


『うぅぅぅぅぅぅ! 殺してやる! コロシテヤル! コロシテヤル~!』


ふむ、これが不快な音か、所謂ここに踏み入れた相手の脅しだ。だが、こんなものに引っかかる奴なんて……


「で、出たぁぁぁぁぁ!」「おっと……これが怨霊の嘆きか」


いた。だが先を急ぎたい。単純にこの罠を仕掛けた魔法師の正体が気になる。


「はい。これが不快な音の正体ですね。それでは進みましょう!」


「ぜぜぜ、絶対怨念だよ! ティアちゃん引き返そう! 今なら間に合うよ!」


「いいえ、怨念と見せかけた精神攻撃です。騙されずに行きましょう!」


「私もオリビエ君の意見に賛成する。これ以上は流石に同行できない。肝試しの範疇をとっくに超えている……学院の報告を……」


オリビーは僕の服を掴んでくる。引っ張るな服が破けるだろう。


「いいえ、これは恐らく魔法師の巧妙な罠です。恐怖感を煽っている。つまり、この状況に怯えていること自体が相手の思う壺なのですよ! 先を急ぎましょう!」


「ティエラリア君……恐れ知らずか? それとも、この場所に対する探求心がそうさせているのか……?」


「あ、あわわわ……お、置いていかないで……」


そのまま僕が先行して、開かずの間へと踏み込んでいく。


☆☆☆開かずの間へ


薄暗い通路を歩いていく。幽霊などが苦手な人にとってはかなりつらい場所だな。


僕が先行して進み、真ん中でオリビー怯え、最後尾にカノンが警戒していた。


「うぅぅ……絶対後ろから出てくるよ……」


異臭が漂っているとても不衛生な場所だ。


「流石に私もここに入るとは思っていなかったから……っ! なんでもない」


謎の物音にカノンが驚いている。意外と可愛い一面があるのだな。話を逸らそうと僕に振った。


「そ、それにしても、ティエラリア君。先ほどの魔法解析見事なものだったな。私は専攻していないとはいえ、一応できるつもりでいたが……もしかして君は『魔法研究師』を目指しているのかい?」


当然疑問に持つことだろう。『魔法研究師』その名の通り魔法を研究する職種だ。ありとあらゆる魔法に精通し、日々魔法の発展に身を削って研究をしている。


難関な試験を突破する必要がある職種だ。聖シエール学院卒業者の中にも多いらしい。


「……はい。目指しています」


嘘をついた。そもそも卒業まで僕はこの場所にいないだろう。だから魔法研究師になることはない。


「そうかい。だったら君の行動にも納得がいくさ……ロストベルタ卿の研究所に食いつくのもそういうことだったのか……」


頷く。するとオリビーはスカートを押さえて足が内股になっている。


「どうしましたか? オリビーちゃん? 体調が優れないのでしょうか?」


「ティアちゃん……トイレ行きたくなっちゃった……」


「「え」」


オリビーの尿意が……?

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