第16話 ボーイッシュな寮長
☆☆☆事件だ!
隣部屋のナイティーとアルティーは同じ布団で意識を失い倒れていた。
すぐ周囲を確認するが魔法による罠の気配はない。第三者からの不意打ちを警戒しつつも二人に駆け寄り脈を測る。
「……脈があります。気を失っているだけ……それに目立った外傷もないと……」
状況は未だ掴めない。だけどこれを事件と仮定すれば生徒が二人倒れたことになる。
「た、大変だよ! ど、どうしたら……とにかく誰かを……」
すると、同じく悲鳴を聞きつけた向かい隣部屋の生徒も訪れる。
「悲鳴を聞きつけてきましたけど……一体何がありまし……っは!」
「ナイティーさんとアルティーさんが倒れています!」
「アーダさん。コーダさん……大変だよ。二人が意識を失って倒れていて……」
アーダとコーダも寝間着のまま駆け付けていた。
「とにかくアーダ様とコーダ様は寮長を呼んできてほしいです」
「そ、そうですね。私達は寮長を探してきます。それにしてもティア様の寝間着最高にかわいいです!」
今そんなこと言っている場合じゃないでしょうが。
「あ、ありがとうございます」
「それでは私達は寮長を呼んできますね!」
アーダとコーダは寮長を呼びに行った。
「私達はどうしたらいいんだろ……とりあえず」
「落ち着いてくださいオリビーちゃん。お二人に外傷はないです。恐らく魔法の類で眠らされた可能性があります……」
魔力の残滓はある。恐らく何らかの魔法が働いたはずだ。確かにこの部屋に……いや、この学生寮には何か違和感が存在していた。
☆☆☆最上級生登場
「話は聞かせてもらったよ。ティエラリアくん。オリビエくん」
大人びた風貌の生徒が部屋に入ってきた。学院ではあまり見ない短めな緑色の髪で高身長。とてもボーイッシュである。
まだ調べ物をしていたのだろうか制服を着ている。
「わわわ、か、かっこいい人……えっと……あなたは……」
「そういえばこうして話すのは初めてだったね。私はここの寮長を務めている『カノン・アリエッサ』三年生だ。カノンと呼んでくれ」
なるほどこいつが寮長だったのか。確かに他の生徒達と比べて空気が違うようだ。恐らく『戦場帰り』だろう。
「初めまして。僕はティエラリア・オルコットと申します」
「私はオリビエ・エストレイヤです……」
「あぁ、寮生の名前は全員覚えている。それよりもナイティー君とアルティー君は……」
カノンが倒れている二人のところへ歩いていき容態を確認すると……
「やはり『
噂……?
「「噂ですか?」」
「学院の卒業生から聞いた話なのだけど。なにやら、ここは生前ニコラス・ロストベルタの研究施設を立て直した場所らしい。ロストベルタ卿はこの学院で一時的に講師をしていたからね」
「ほ、ほんとですか!!!!!」
しまった。つい、声が裏返ってしまった。
「い、いや、物的証拠は一切ないよ。あくまで噂だからね、しかしティエラリアくん凄い食いつきっぷりだね」
「失礼しました。続きをどうぞ」
「話に戻るね。その研究施設では非人道的な実験が行われていたらしい。魔力の増幅や魔法の譲渡などだ。しかし、ロストベルタ卿は数年後に突如として学院を去ったとされている」
するとカノンは不敵に笑いながら低い声で言った。
「……そして、被験者の怨念がまだ寮に残っているらしい。夜になると誰のものでもない悲鳴や、呟くような嘆きが聞こえてくるらしい……くくく……」
怨念なんてあるものか。だが隣にいたオリビーは……
「お、お、お、お……怨念……え、え……この寮ってそういうのいるの……」
青ざめていた。それを面白がってかカノンは話を続ける。
「運悪くその声を聞いてしまうと、目の前に被験者の霊が現れ、意識を奪われてしまうらしい。そして夢の中に閉じ込められて……出られなくなるというわけだ。その現象をこの学院では『明日夢の黄昏』と呼ばれている」
『明日夢の黄昏』……所謂『
『明日夢病』。共和国内で七年前から流行っている目覚めなくなる病のことだ。
明日夢病は未解析な部分が多く七年前と比べて発症者が減ったが、未だ的確な治療法が見つかっておらず、自力での回復を願うだけである。
発症者の三割ほどが明日夢病を患い帰らぬ人となっている。発症者から感染することはないが、何が原因で発症するかは不明だ。
「あくまで噂でしょう。霊的なことは一切信じていません」
「そ、そうだよね! ティアちゃんの言う通りです。お、お、お……お化けなんていないと思います」
相変わらずオリビーは震えていた。
「でも、症状自体は明日夢病なんだけどね。この学院で明日夢病が発症することがおかしいと思わないかい? だからこそ、ニコラス・ロストベルタ卿の噂が広まったわけだし……」
「なるほど、つまり原因が分からない現象に対して亡霊のせいにしているわけですね」
理由が分からない事象を霊的な何かのせいにするのはどこも同じか。
「……ナイティーさんとアルティーさんが発症しているなんて話聞いたこともないけど……やっぱりお化けの仕業なのかな……」
なぜこの場所で明日夢病が発症したのか……そこは謎であるが……
「だから私も困っているんだ……これで寮生が倒れたのは何件目だろうか……どうにかしたいとは思っているのだけどね……(チラツ)」
カノンは僕の方を見ていた。
「……分かりました協力します。僕自身も不確かな噂のある寮に住むのは気が休まりませんし」
「え、ほ、他の人に任せようよ。だって、もしお化けが出たら危ないよ」
「大丈夫です。幽霊なんてものがいるはずがありませんので」
「で、でも。ティアちゃん!」
オリビーは怯えているようだし、これで一人の行動が出来るだろうか、それにニコラス・ロストベルタの研究施設があれば、かなりの収穫になる。噂だろうが調べる価値はあるのだ。
「大丈夫です。僕一人でも探索は出来ますから。オリビーちゃんは部屋に戻っても……」
「え」
「ははは、ティエラリア君。君は魔法主義者だね……全く幽霊なんてものを信じていないじゃないか」
「当然ですよ。幽霊なんて絶対にいないものですから」
それに関しては確信があるので揺らがない。
「ちょっちょっと待ってティアちゃん。私も行くよ! 置いていかないで!」
「ですが、オリビーちゃんは幽霊が苦手なようです。先ほどの噂話でかなり震えていましたよ。無理についてこなくても大丈夫ですから」
「それは……そうだけど……(ティアちゃんと離れる方が嫌だから……)私も同行するよ!」
怖いのに?
「ははは……そうかい、君達はそういう関係なのか……面白いね。それじゃあ、ティエラリア君とオリビエ君。一緒に寮内を探索しようか」
こうして僕達は、深夜の寮内を探索することとなった。
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