第12話 魔法実技の授業

☆☆☆更衣室で……


魔法実技の授業では身体を動すため、制服が汚れるのを避けるべく、運動着に着替える必要がある。


「やっぱり、初めての魔法実技は緊張しますわね……」


「そうですね、もしかしたら怪我人が出る可能性だってあります……」


「講師の先生も『戦場帰り』らしいから、厳しいって噂されてるよ」


更衣室に入ると先に同じクラスの生徒達が着替えをしていた。異性の半裸を覗くのは主義に反する。僕は誰も見ないよう更衣室の隅で着替えることにした。


「『シャドー・カーテン』」


そして僕の着替えも覗かれないように幻影魔法を駆使して、影のカーテンを作り出す。これで他の生徒から見られないだろう。


「わー意外と大きい。制服じゃあまり気付かないですけど脱げば大きさが分かりますね!」


「きゃっ! ちょっと触らないでください! 見るだけ限定ですから!」


「あ、照れてるかわいい!」「顔が赤くなってかわいい~!」「下着も可愛い~」


「きゃ~~~~~~!」


黄色いクラスメイト達の会話が聞こえてくるが……無視だ。


聞こえない。聞こえない。僕は何も聞いていない……


こういうことがあるから更衣室は怖い。正直今もオリビーが来ないかヒヤヒヤしている。


だけど、僕は何事もなく着替え終わり、シャドー・カーテンを解除した。


「あ、ティアちゃんも隠れて着替えていたんだ。流石にああやって堂々と着替えられないよね……あそこは一種の戦場みたいだね」


本当の戦場に出たことがないからこそ言える言葉だな。


でも、あそこへ入れば僕達は恐らく標的になるだろう。オリビーもそれを察したのか隠れていたと……思ったより奥ゆかしいのだな。


「それでは闘技場へ向かいましょうか。オリビーちゃん。僕達は訪れるのは二回目ですね」


「うん」


こうして二人で闘技場へ向かった。


☆☆☆魔法実技


闘技場へ着くと魔法実技の授業は始まる。


「今日はまず、生徒諸君の属性について理解をしてもらうことにする。順番にあの的に向かって魔法を放ってみろ。破壊したものは成績優秀者とする」


「ファイヤーボール!」「ウォーターバレット!」


「ウィンドカッター!」「ランドショット!」


生徒達が的に向かって各自の持つ魔法を放っていく。それどころか的に当てることが出来ない生徒もいた。恐らくは実家の力で入学できた生徒だろう。


「うわー難しい!」「当たらないよ~!」「的壊れない~!」


やがて僕の番が回ってくる。しかし……


「すみません。私の魔法は幻影魔法ですので、魔法自体に威力はないです」


そう、僕の魔法に威力はほぼない。どんなに頑張ってもあの的を破壊することはできない。


とりあえず見本として魔法を的に放つ。


「ティア様凄い! 全部的の真ん中に当てています!」


「私なんて当てられないのに!」


制御に関しては得意だ。


「見事な魔法制御だ。ティエラリア生徒は無属性魔法師だったな。昨日の決闘を拝見したぞ。私の目から見ても、今すぐ戦場で活躍できる実力があるのは分かっているさ、幻影で攪乱してからの奇襲を得意としているのだと」


「はい。ですからあの的を魔法のみで破壊するのは不可能に近いです」


「では、私を的と見立てて攻撃してみると良い――ファイヤーボール」


「ティアちゃん危ない!」


すると、講師は自分に魔法を放つ。なるほど、実戦形式というわけか、恐らく講師は僕が正面からの戦闘に向いていないと考えている。


それを踏まえたうえでの不意打ちだ。条件は圧倒的に講師が有利。恐らく僕は生徒への恐怖を植え付ける贄にされようとしている。


放たれた魔法はごあいさつ程度だ。簡単に躱しながら幻影魔法を……


「『シャドー・フェイク』」


「そうすることによりお前は距離を取ろうと――何っぐ、うがが……」


幻影魔法を使うこと自体がフェイクだ。距離を取らず、接近し相手の手首を掴み捻ると講師は膝をついた。


「ティア様が勝ちましたーーー!」


「無属性魔法師は接近戦が得意です。詠唱するよりも先に相手を無力化してしまえばよいのですから。それを踏まえたうえで、圧倒的有利な状況での模擬戦。ありがとうございました」


ロムリスに比べれば大したことがなかった。いくら『戦場帰り』とはいえその程度か……いや、ロムリスが異常なだけか。


「「「きゃ~~~~~ティア様~~~~~!」」」


「……見事だ。ティエラリア生徒。君の実技は満点にしておこう……」


「ありがとうございます」


当然の結果だろう。視覚からものすごい音がして振り返ると……オリビーが的を全部壊していた。


「あの、私の番で魔法を放ったのですけど……的全部壊れてしまいました……」


流石は光属性魔法師だ……


「……オリビエ生徒。君も満点だ」


☆☆☆嫉妬


満点を取り暇になったので、伸び悩む生徒に魔法の使い方を教えていた。


「つまり、火属性魔法の場合は体内と外気の温度を操ることを意識して放つことによって威力が上がります。どこから魔法が出て、どこに魔法が届くのか、しっかりとイメージしましょう」


「ファイアーボール! あ、さっきよりも命中精度が上がりました! ティア様の教え方本当に上手ですね!」


「いえいえ、モブイチ様の才能あってのことですよ。モブニ様は風の流れを意識してみると、的に当たりやすくなると思います」


「ウィンドカッター! 本当だ。当たりました! 流石ティア様です!」


すると、オリビーが一人で魔法練習をしている。


「あ~~~私も光属性魔法の使い方分からないな~~~」


とても大きい独り言が聞こえる……これ絶対教えてほしい奴だ。仕方がない。


「あ、ティアちゃん!」


「えっと、それでは、光属性魔法について説明します。周囲の光を半永久的に吸収して、ほぼ魔力切れを起こさずに使うことができて、魔法干渉が起きた時に全属性へ、有利に働くことが出来ますし、それに光属性魔法には特定の……(以下略)」


光属性魔法が展開する理論について説明したが……理解していないようだ。


「……半永久……? 魔法を吸収……魔法干渉……?」


光属性の理論から説明しようとしていたが、顔がフリーズしていた。


「ヒカリゾクセイマホウムズカシイ……」


「す、すみません。一度で全部の説明は難しいですよね」


オリビーは恐らく魔法という理論が分からなくても、使用できてしまう天才肌なのだろう。


「私の方こそごめん。せっかく説明してくれたのに……何とか理解しようとはしているんだけど……とにかく光がバーンって! 使用していたイメージがあったから。そんな理論があるなんて知らなかったんだ」


するとオリビーの手は光り出す。やはり考えない方が上手く使えているようだ。


「オリビーちゃんの場合は理論を構築するよりも、直感で使った方が良いのかもしれません。出過ぎた真似をしたかもしれません」


「そ、そうなのかな……でも、ティアちゃんが一生懸命早口で語ってる姿見れたから……ティアちゃんって魔法好きなんだね」


「え、えぇ……魔法学は得意です。そういう意味では魔法が好きなのかもしれませんね……」


組織あそこで無属性魔法師が生きていくには必要だったことだ。


他の生徒達に魔法を教えていると実技の授業は終わりを迎える。


「ティア様の教え通りにやったら魔法が上達しました! 流石ティア様です!」


「お構いなく。当然のことをしたまでです」


「ご謙遜なさって! ティア様は素晴らしいですよ!」


「「「ティア様! ティア様! ティア様!」」」


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