第7話 偽りの友情

☆☆☆勝利の余韻


決闘が終わり、控室に戻ると集中力が途切れる。なんとか乗り切ることができた。


「変な形ではあるけど勝ちは勝ちだよね……緊張したぁ……」


オリビーも気が抜けているようで、ベンチに腰を掛けている。


「はい。僕達の勝利です。確かにこれが戦場であれば負けていたのはこちら側でした。それにオリビー様がいなければここまで拮抗した勝負とならなかったはずですから」


そもそも、僕とオリビーの実力ではどうあがいても二人に勝つことは出来なかった。振り返れば振り返るほど実力の差を痛感する。


だからルールに則って勝つしかなかったのだ。


ラーリアの危機を利用してロムリスから冷静さを失わせ、自分達に対し殺傷能力がある魔法を使用させる。


ロムリスの暴走を狙うことで反則による勝利だ。まさか『オーバースタンピード』を使ってくるとは想定外だったが、一発でも食らっていればこちらが死んでいた。


このことはオリビーにも話していない。話せるわけもない。


「でも……ほんとによかった……奴隷にならなくて……」


すると僕の方を向く。


「それにしても、ティアちゃんの身のこなし凄かったよ……あのロムリス先輩と一瞬でも渡り合えたし、ラーリア先輩に一撃を入れることが出来たなんて……」


「僕の動きは無属性魔法師として、出来て当然の物ですよ。オリビー様の方こそ、あのロムリス様を足止め出来ていたことは素晴らしいと言えるでしょう」


「ティアちゃんがいたから頑張れたんだよ。私一人だったらあそこまでできなかった。これが友達の力なんだね……凄いね!」


両手で握手をされる。だから圧が強いよ。


「そうですね。オリビー様とだからできたことです。ありがとうございますオリビー様」


愛想笑いを浮かべながら手を握り返した。


光属性魔法の使用者が味方でいれば何かと利用できるだろう。友達の素振りをしておけば力を貸してくれるはずだ。


そして、僕はオリビーのことを微塵も友達だとは思っていない。


オリビア・エストレイヤ。利用させてもらうぞ……


☆☆☆同室の相手は……


性別を偽っていることで注意するべき場所はやはりお手洗いだ。


当然。個室を使用しなければならない。正直バレないかヒヤヒヤしているが……なんとか乗り切れる。


お手洗いはやはり生徒たち秘密の場所となっている。個室にこもっていると僕達の話がちらほらと……


「しかし、先ほどの決闘は素晴らしかったよね~ティア様あんなに美しくて、あの身のこなし!」


「そうですね~オリビーさんもまさか光属性魔法の使い手なんて、伝説を目の前で見ている気分です……それにとても可愛いですし」


「そうですよね~オリビーさんとティア様の友情関係とてもお美しいです~」


どうやら、僕とオリビーの関係について言及されているようだ。


「私達ずっとあの二人を応援しましょう。むしろファンクラブ作りましょう!」


会話が止み出ていったことを確認すると、個室から出る。さてと、この後は……もう一つの困難が待ち受けている。


聖シエール魔法学院は全寮制となっている。爵位の高い貴族生徒であれば個室が用意されている。だが、僕の場合は正式な入学をしていないしそんな贅沢出来ない。


恐らく『組織』は僕を入学させるだけで、力を使い切った。


相部屋であるため必然的にルームメイトと一つの部屋で過ごすこととなる。


何よりも気を付けなければならないことは正体がバレる可能性の高い寮生活だ。


そして相部屋となる相手だが……こればかりは神様に願うしかない。


「やった。ティアちゃんと相部屋なんて運命だよ! これからもよろしくね」


……オリビーであった。


両手を掴まれる。不味いことになったな……オリビーは距離が近い。


当然同室になれば接触が増えるだろう。そうなれば……僕の性別がバレる可能性も飛躍的に上がってしまうはずだ。


「よろしくお願いしますオリビー様」


同室になることは想定外だった。僕が取った先ほどの行動は『友達』を強く意識させるものだ。


つまり、オリビーとの距離が近くなることが裏目に出た。恐らく就寝や起床中にも接触はあるだろう。


「ご入浴はオリビー様が先にどうぞ」


「うん。ありがとう……先に使わしてもらうね!」


事故でバレるのだけは避けたい。細心の注意を払わなければ……!


☆☆☆これからのこと


オリビーが上がった後に僕も入浴する。正直浴室に入ってこないかとひやひやしたがそこは常識を持ってくれていたようで、部屋で待ってくれていた。


「おかえり。ティアちゃん。あ、寝間着まで可愛い……」


寝間着もフリーサイズで体系は誤魔化せる。


「お待たせしました。オリビー様」


この部屋のベッドは二段でなく対角線上に別れていたことが救いだった。


横向きになると、同じく横向きで寝ていたオリビーと目が合う。


「今日は入学式なのに色々なことがあったね。明日からの学院生活が上手く遅れるか不安だよ……正直誰かに魔法を使うのだって初めてだったから」


オリビーは本当に戦闘の素人であったか。それなのにあのロムリアと渡り合える光属性魔法は脅威だと思う。


ほんとにいろいろなことがあった。これからのことを考えると先が思いやられる。


「僕は意味のある時間だったと思います。オリビー様」


「その……ティアちゃん。私に様付けは必要ないよ。友達なんだからさ!」


それもそうか、正直距離は置きたい気持ちはあったので、全員様付で呼んでいたが。


『友達』なのに様付けはおかしいか。


「では……オリビーさん」


「オリビー『ちゃん』でお願いします」


注文多いな。


「オリビーちゃん」


「うぅぅぅぅぅ。ありがとうぅぅぅぅ! ティアちゃん。大好きだよ!」


オリビーは目を光らせている。どんだけ友達を欲していたのだろうか。


「これからの学園生活よろしくお願いしますね。オリビーちゃん」


「うん! こちらこそよろしく!」


「「おやすみなさい」」


こうして入学初日は終わりを迎える。目を瞑ると今日の出来事を思い返した。


学院への潜入に成功。これからは『組織』が出す任務をこなしていくことなるだろう。


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