第6話 最強の無属性魔法師

☆☆☆作戦会議


決闘開始前。作戦会議中に聞かされたオリビーの真実。


「実は私……光属性魔法を使えるんだ」


……その言葉に僕自身も戸惑いを隠せなかった。


「光……属性魔法ですか……」


するとオリビーは自らの手に力を籠めると、周囲から光が集まってくる。


「そう。周囲の光を吸収して魔力に変えることができるんだ。だから、特待生としてこの学院に来ることができたんだ。それ以外に何も取り柄がないし……」


僕は昔に見たことがあった。だからこそ分かる。オリビーの持つ光属性魔法は本物であると……


とても懐かしい、光……だけどその光はもう僕の思い出にしか存在しない。


それが目の前に現れたのだ。


「光属性魔法は相手の意表をつけます。最大の瞬間まで隠しておくのが得策でしょう。その間は私の無属性魔法でフォローします」


「あ、ティアちゃんは無属性魔法なんだね……どんな魔法なの?」


「幻影を作ることができます。ですから、オリビー様の魔法が使用すると同時に隠蔽することで、相手の注意を僕が引き付けます」


「二人の注意を……でも、それってとっても危ないんじゃないの」


恐らく身体能力だけであればオリビーよりも僕が優れているだろう。


「大丈夫です。最初にあった時の身のこなしを信じてください。だから二人が動揺したら一気に畳みかける。これが勝利への条件です」


注意を全部僕に向かわせて、オリビーが光魔法を使うことにより、あの二人の意表を突く……


「ロムリス様さえどうにかできれば、勝てる可能性が出てきますから……」


「分かったよ……上手くできるか分からないけどやってみる!」


☆☆☆決闘の続き


オリビーが光属性魔法の使用者であると認知され、観戦していた生徒達からどよめきが起きている。


「嘘……光属性魔法!?」「まさか、この学院にもいらしたなんて!」


恐らく多くの人達が光属性魔法を見たことがないためだ。


そして、当然目の前にいる二人も戸惑っていた。


「今です! オリビー様」


「はぁぁぁぁぁ『ライトニング・フルドライブ』」


周囲の光を吸収し加速したオリビーは高速でロムリスに接近。木剣を振るう。


「光属性だからと言って……いくら速かろうと……動きが素人同然です! 私が受け止められないとでも!」


初撃は完全に見切られていた。ロムリスの動体視力はどうなっているんだ!?


「そしたらもう一撃。さらにもう一撃を! はぁぁああ!」


オリビーは諦めずに何度も木剣を振るう。だが、ロムリスの言った通り、剣を振るうことに慣れていない。


このままでは、意表を突いた意味がなくなってしまう。


だからこそ!


「『シャドー・フェイク』」


幻影魔法を使用した瞬間に木剣をロムリスに投げる。


「私と同じことをしても!」


投げた木剣はひらりと交わされるが……その隙に僕は再びラーリアの元へ駆け出す。


「む、無駄ですわよ! あなたがいくら接近したところで!」


僕の足場は再び泥濘へと変わっていく。だが……!


「『クリアーシールド』」


無属性魔法の出現先は足場。これで泥沼に落ちることはない。ステップを踏みながら、ラーリアに急接近。


「まさか! ぬかるんだ足場を無属性魔法で固定したというのですわ!? 何という魔力制御!」


ラーリアは魔法に特化している。体術の接近戦に持ち込むことが出来れば……こちらに分がある! 咄嗟に魔法で応戦しようとするが……


「『ファイ――』」


「――唱えさせません!」


詠唱するよりも先に胸骨へ掌底を命中させた。


「っでっすっわ~~~!」


「ラリー様……!」


オリビーがロムリスを止めて時間を稼いでくれている。だからこそ、ここでラーリアを仕留める……背負い投げて――


―――――!?


なんだこの殺気は……尋常じゃない。おかしい。


身の毛のよだつプレッシャー。ここにいれば死ぬと直感が働いた。


振り向くと……


「っぐ! ティアちゃん気を付けて! ロムリス先輩の魔法が!」


「『オーバースタンピード』……!」


ロムリスが唱えた。その魔法は――


「――っは! ロ、ロム! 流石にそれはやりすぎですから! 私は大丈夫ですから! 『死人』が出ます!」


すぐに僕はラーリアから離れた。そして、全力の障壁魔法を恐らく命中する場所にのみ限定して展開する。


「ティアちゃん! 私も!」


僕の元へオリビーが駆け付けて同じく障壁魔法を展開した。


「「「きゃああああああああ!!」」」


凄まじい魔力のぶつかり合いに闘技場から悲鳴が起きる。


「絶対に……ティアちゃんを守るんだぁぁぁぁ!」


闘技場が揺れ続ける――――――


☆☆☆戦いの決着。


「――ですか! 大丈夫ですか!」


――――あれ……ラーリアの声が聞こえてくる。


「……!」


周囲を確認するとラーリアとロムリスが慌てて此方へ向かってきた。どうやら僕は数秒間意識を失っていたみたいだ。


「……あれ、私は……ティアちゃん無事……!?」


そして、オリビーも目を覚ましたらしく、状況を理解し酷く落ち込んでいた。


「でも……私達意識を失ったってことは……負けちゃったの……」


「いいえ、決闘はこちらの負けですわ。お二人とも本当に無事ですの……? 怪我はなくって!?」


大慌てでオリビーの方を確認する。


「ど、どうして! 私達は気を失っていたんですよ!」


駆け付けたロムリスが頭を下げた。


「申し訳ございません! ラリー様の身に危険が迫ったと判断して、本来生徒に向けるべきではない魔法を使用しました。この行為は反則行為に値します」


『オーバースタンピード』ロムリスの持つ切り札だ。一度見たことがなければ躱すことは不可能だったに違いない。


無数に錬成された無属性魔力の弾を打ち続け一度でも触れてしまえば、相手の魔力源を狂わせる。その相手はやがて苦しみ倒れ死に至らしめるという。


『白銀の帰還者』の名にふさわしい最強無属性魔法だ。


正直。あの魔法を向けられた時は死を感じた。だけど、今こうしてオリビーも僕も生きている。


「僕の方も大丈夫です……」


「本当に無事ですの? ロム! あの魔法は戦場でのみ使用と約束していたでしょう! 一歩間違っていたら大切な二人の命を奪ってしまうところだったのですよ!」


「すみません。ラリー様の身に危険が迫っ――」


「――分かっています! 従者の失態はこちらの失態でもありますから!」


ラーリアはロムリスと一緒に頭を下げた。本気で謝罪されて気まずくなる。恐らくオリビーは何が起きたのかさっぱり分かっていないようだし。


「「誠に申し訳ありませんでした!」」


歓声は上がらなかった。というよりも、先ほどの『オーバースタンピード』に皆が怯えていたのだろう。


こうして、決闘はラーリアとロムリスの反則負けにより、僕達の勝利となった。

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