第3話 友達との距離感

☆☆☆決闘を申し込まれました!


「それでは放課後。闘技場にてお待ちしています。ですわ! おーほっほっほ!」


決闘は放課後に行われることになり、ラーリア達は引き下がっていく。


どうやら、生徒代表と特待生の決闘は伝統らしく、入学式後の恒例行事らしい。


なので、ラーリアは特に悪意があって決闘を申し込んだわけでないのだ。それに、新入生の中で一番優れている特待生が負けることによって、先輩たちの権威を示す目的もあるとかないとか……


だけどそれは一対一の決闘であり、今回みたいな二対二は前例がないらしい。


「ど、どうしよう……勢いで決闘を承諾しちゃった……それに、ティアちゃんも巻き込んじゃった……」


「落ち着いてください。オリビー様。どのみちお二人が決闘することは既に決まっていましたから。それが学院の伝統です」


「そ、そうなのかもしれないけど、負けたらラーリア先輩に、ティアちゃんが……取られちゃう……」


そう、そこが問題なのだ。従来の決闘は何も賭けたりしない。なのに決闘でこちらが負ければ僕がラーリアの奴隷になる。


奴隷って……あのラーリアはいったい何を考えているのだろう。いくら公爵だからと言って我儘が過ぎる。


なにも賭けていない決闘なら負ければいいと思っていた。だが、負ければ学院内の行動に制限がかけられ性別もバレる。


何としてもそれだけは避けなければならない。


「とりあえず。教室まで一緒に向かいましょう。放課後までは時間があります。対策はその間に考えておけばいいのです」


「う、うんそうだね……こんな状況でも落ち着いているティアちゃんは凄いね……」


内心では何一つ落ち着いていないのだけど……


☆☆☆同じクラスでした。


二人で教室まで向かう。クラスは『百合組』に割り当てられオリビーと同じだった。


「『百合組』ですか……もしかして、オリビー様も?」


「い、一緒だね! ティアちゃん! これは偶然通り越して運命だよ!」


「これからもよろしくお願いしますね」


「うん! 最高の気分だよ!」


教室に入ると座っていた生徒達の視線はこちらへ集まる。そこに先ほど正門で話をかけられたモキヤラブが話をかけてくる。


「ご機嫌よう。モキヤラブ様」


「ティア様! ご一緒のクラスとは運命ですね! ティア様もラーリア様との決闘にご参加なされるとは驚きです」


やはり噂は学院中に広がっていた。


「しかも、敗北なさると奴隷になってしまうなんて! あぁ! ラーリア様の奴隷になれるのも羨ましく感じますが、ティア様を奴隷にするのも大変羨ましい。つまりはダブルインパクト羨ましいということになります!」


この人はラーリアの奴隷になりたいのだろうか、そして、僕を奴隷にしたい……なんなんだよ……やばい人じゃん。


「わ、私がそれをさせないから! と、とにかく。モキヤラブさん。よ、よろしくお願いします!」


「はい。よろしくお願いします。オリビーさん」


二人は握手を交わす。


まるで僕を争うような決闘になっているが、僕は誰のものにもなりたくない。


☆☆☆放課後


講師がやってくると、これから過ごすにあたって学院のルールを説明された。一通り終わると、クラスメイトの自己紹介が始まる。


僕が自己紹介した時が一番多くの歓声が上がっていたのは、どうしてだろうか……


今日は授業がないようなので自己紹介が終わると解散だ。まだ時間はあるがオリビーとの作戦会議は必要だろう。


使える魔法についても知っておかなければ、作戦を立てることもできない。


座席は自由になっていたため、僕の隣を絶対に譲らなかったオリビーは目が合うと返事する。


「な、なにかな、あ、もしかして決闘について? 良い作戦が思いついたのかな……」


考えを読まれているようだ。いや、共通の話題と言えばそれなのだが……


「はい。そのためにもオリビー様が使う魔法についてお伺いしておこうかと」


「その前にここじゃ話を聞かれる可能性があるかもしれないから……」


うなずくと教室を出て闘技場の中にある控室へ訪れる。


僕が長いベンチに腰を掛けると、オリビーは距離を詰めて横に来た。


……と、とても近い。


「最初にティアちゃん……その、決闘に巻き込んでしまってごめんなさい」


頭を下げられた。


「顔を上げてください。その件についてはもう過ぎたことですから」


「その、ぼ、私……幼い頃から身体が弱くて……友達ができたことがなくて……それで、魔法を使えるようになったのも、後天的で……だから正門を通った時。転びそうになっていたところを助けてくれた君が、凄く優しくて、眩しくて……その『友達』になれたらなって……」


顔を真っ赤にしている。『友達』か……信頼はあの時に得られただろう。


オリビエ・エストレイヤ。魔法の才能は後天的なものだったのか……


「何を仰るのですか、僕達はとっくに『友達』ですよ。オリビー様はいつも隣にいてくれるのですから……」


友達がいなかった奴の言う。『友達』という言葉がとても重いものだ。だけど、オリビーがそう思ってくれているのなら利用しても良いだろう。


「ティアちゃん……」


すると、オリビーは僕の手を掴み少し強く握った。


「だから、ラーリア先輩にティアちゃんが……『友達』が取られるって思ったら凄く嫌で……少し気が強くなってしまって……ごめんなさい……」


圧が強い。圧が強いから……


「大丈夫です。ところで、オリビー様はどうしてこの学院に?」


話を逸らす。


「私は……離れ離れになった『両親』を探したいんだ」


「……『両親』ですか……」


「幼い頃に私の前からいなくなってしまって……もし、この学院を成績トップで卒業することが出来て、共和国軍に入隊すれば両親を探す力が手に入るから……」


聖シエール魔法学院の卒業者は将来を約束されている。それだけ魔法に対し優秀な人材が集められている学院だ。


そこを成績トップで共和国軍に入ればそれなりの権力は握れるし、自由に動かせる人材も出てくるだろう。


つまり、行方不明になった両親を捜索するため、この学院に入学した。没落貴族出身の特待生となればその実力は相当な物であるに違いない。


エストレイヤ家はオリビーの才能を利用して、貴族として再興を狙っているのだろう。


……しかし……『両親』か……僕も似たような理由で……そうだ……


『――きて――生きて――ィア――ティア――』


炎の中。僕を助けた両親が記憶で蘇る……大丈夫だよ、一時たりとも忘れたことはないから……だから、その悲しみは今の僕には必要ないんだ。


すぐに表情を切り替える。


「……ご両親。いつか見つかると良いですね。オリビー様」


気を取り直して、僕はオリビーに作り笑いを浮かべ答えた。


「ありがとう。ティアちゃん……ありがとう……私、頑張るよ!」


「はい、頑張りましょう! オリビー様!」


こうして二人で作戦を話し合った。


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