第2話 破天荒なお嬢様?

☆☆☆見つめる視線


講堂へ着くと、真ん中の席が空いていたのでオリビーと二人で座った。


「ティアちゃん。本当に制服変じゃないよね……うぅぅ……」


「緊張しているから、周りから変な目で見られるのではないのですか? オリビー様はとてもお似合いですよ。だから自信を持ってほしいです」


僕の場合は特に堂々としていなければ……変な目で見られるのは避けてたい。なにせ性別を偽っているんだ……


「うぅ……それをティアちゃんに言われると自信無くすんだよね……ティアちゃんは、その滅茶苦茶可愛いから……」


「お褒めに預かり光栄です。オリビー様」


愛想笑いを浮かべると、オリビーは顔を真っ赤にしていた。


やがて、新入生が全員席に着くと、学院長が現れる。名前は確か『エズモル・ロングリア』だったか。


「新入生諸君。私が学院長のエズモル・ロングリアだ。本日から君達はこの学院で魔法を学ぶことになる。魔法とは今の時代より五十年前に突如発現し、世界の均衡を作り変えた。君達は選ばれた存在だ。なにせ、この聖シエール魔法学院への入学が許されたのだ。その事実が君達を優秀な魔法師だという証明になる。そして、卒業した暁には今以上の素晴らしい魔法師へとなっているだろう!」


拍手が起こる。


「だが、ここにいる新入生から卒業できるのはほんの一握りだ。覚悟して魔法に励むがいい! 私の長話はここまでだ。あとは生徒代表に任せるよ……ソーフィアくん」


「おーっほっほっほ! で~すわ。ですわ。で~すわ!」


高笑いを浮かべながら、上級生の生徒二人が出てきた。


金髪の二つ結びドリルの形状になっている。高身長だ。透き通った綺麗な肌。そして高貴なる態度に新入生は興奮を隠せていない。


その後ろには無口な長く伸びた美しい白髪の生徒が無表情で立っている。


「お美しい……」「なんて華麗な……」「『ですわ』が素敵ですわ……」「金髪綺麗……白髪も……」


わたてくしの名は、ラーリア・カミラ・ソーフィアですわ! もちろん皆さんはご存知ですわね? おーっほっほっほ……ですわ!」


『ラーリア・カミラ・ソーフィア』。確か親はこの国の公爵だったか。つまりこの学院でもそれ相応の地位についているはずだ。


確かラーリアは四大魔法を全て使える共和国随一の魔法師とうたわれていた。正直に言えば、もう少し落ち着いた人だと思っていたけど……かなり、大っぴらな性格のようだ。


「「「「で~すわ。ですわ。で~すわ!」」」」


……ナニコレ。新入生たちみんな連呼しているし、僕も言わないといけないのかな……


「新入生の皆さん! ご入学おめでとうございますわ! わたてくしの名は、ラーリア・カミラ・ソーフィアですわ!」


さっき聞いたよ。どれだけ自己紹介しているんだこの人……


「「「ですわ!」」」


隣にいるオリビーの反応確認して、僕も『ですわ』するか決めよう……え?


「じ~~~」


え、オリビーがずっと僕のことを見ていた? なんで?


「あっ。目が合った。うふふふ……うれしい」


目が合うと微笑まれた。なんで? 人の話聞こうよ。自己紹介しかしていないけど……


「ちょっとそこの貴方達!」


すると、ラーリアは僕達を見ていた。


「「え」」


「貴方達ですわ! ちゃんと、四大魔法属性全てを使える学院史上最強の逸材。『ラーリア・カミラ・ソーフィア』またの名を『黄金の四聖魔法師しせいまほうし』の話を聞いていまして?」


ラーリアに指を差された。『黄金の四聖魔法師』なんて聞いたことない。


「ご着席。ですわ! 二人とも……おや、貴方は……」


僕じゃなくオリビーの方に注意が向く。そうか、オリビーは特待生だ。


「特待生のオリビエ・エストレイヤ! いくら去年の私と同じく主席で入学したからと言ってその余裕はいかなものかと! あ、ですわ! しっかりと私のありがたいお言葉を心で聞くのですわ!」


すると、ラーリアの横に立つ華麗な長い白髪をした従者。『ロムリス・アルバリア』が口を挟んだ。


感情を表に出さないロムリスはラーリアに劣らず整った顔立ちをしていた。


「落ち着いてください……ラリー様。今は入学式のご挨拶です……一度怒りを収めて……!」


ラーリアはロムリスに対し強く睨みつける。これはもしかして暴力を振るうのではないだろうか……


「ロム! 何度言ったら分かりますの! 私に意見するときは言葉の最後に『ですわ』をつけなさいと……ですわ!」


え、意見をすることでなく『ですわ』をつけないことに怒ってるの?


「落ち着いてください……ラリー様。今は入学式のご挨拶です……一度怒りを収めて……ですわ……」


「おーっほっほっほ! それもそうですわね、この場で私は怒りを収めます。ですが、オリビエ・エストレイヤと横にいる御方の顔は覚えました。あ、あら、あなたとても素敵な顔立ちを……ですわ!」


普通に納得してくれたし……意外と物分かりが良いのではないだろうか。


「……やはり、あの二人が並ぶと金白の髪色がとても絵になりますわね~~~二人の髪で編んだマフラーはさぞ高級品になることでしょう!」


モキヤラブは何を言っているんだろう……


☆☆☆入学式が終わり


多少ハプニングがあったものの、無事入学式は終わり僕たちは校舎に入ろうとする。


「そういえば、どうしてあの時僕を見つめていたのですか?」


「えっといや、それは~ティアちゃんが凄く綺麗だなって……」


僕に見惚れていたというのか? 


「そ、それにしても大変なことになってしまいましたね」


「そうだよ。まさか、ラーリア先輩に目をつけられてしまうとは思わなかった!」


――しかし


「お待ちなさい貴方達……ですわ」


そこには式が終わって怒りを露わにしたラーリアが待っていた。


もちろん僕達に用があるのだろう。


「先ほどは入学式の建前上強く言えませんでしたが、ロム。今なら大丈夫でしょう。ですわ!」


すると、ラーリアは横に立っているロムリスの目を見ると。


「はぁ……今なら大丈夫です。ラリー様」


ロムリスはため息を吐きながら答えた。


「ならば、私の怒りを貴方達にぶつけますですわ! 少しの間我慢していました! ですわ!」


「あ、あのごめんなさい! ついうっかり、ちょっとその……決して話を聞いていなかったわけではなくて……」


「こちらのご無礼はお詫びします……ラーリア・カミラ・ソーフィア様」


僕もオリビーも頭を下げるが……ラーリアは手袋を投げた。


「問答無用ですわ! 貴方達! 『決闘』を所望します! ですわ!」


「「「え」」」


僕を含めた三人が声を漏らしてしまう。


「流石に得策ではありません。ラリー様。もし決闘を行い負けるようなことがあれば、これは勝負は時の運という言葉で済まないことになります……」


「うぅぅぅ……(で~すわ……ですわ……で~すわ)」


しかし、ラーリアは無視を貫いたが目で合図を送っている。それをロムリスが読み取ると……


「あ、ですわ」


「むむ、ですわ! 出る前に負けるようなことを考える存在がいらっしゃいまして? ですわ!」


『ですわ』言わないと反応しないって何なんだろう。本人が一番不自由そうだけど……


「ラーリア様。ご意見よろしいでしょうか……ですわ」


やはり『ですわ』に反応している。


「ですわで返すとは『ですわポイント』が高いですわね、あなたの美しさも相まって五百ポイント贈呈しますわ……名を何というのですわ?」


ですわポイントとはなんなんだ。


「僕はティエラリア・オルコット……ですわ」


すると、ラーリアはなぜか嬉しそうになっていた。


「……あら、あなた、とても物分かりが良いですわね。私の奴隷になるつもりはないかしら、顔がとても好みですし、悪いようにはしません。ですわ! はぁ……はぁ……」


うわ……いきなり奴隷にならないかって目が度知っている……怖い。


奴隷になれば僕の性別がバレる可能性が高くなる。服とか脱がされたら終わりだ。


「えっと、それは……あはは……検討します……」


「もし、あなたが私の奴隷になるというのであれば、この決闘も取り下げます。私はあなたが欲しいのですわ。ティエラリア・オルコット! 私の奴隷に――」


「――そ、それはダメだよ!」


「オリビー様?」


オリビーは今まで聞いた中で一番大きな声を上げる。


「ティアちゃんをあなたの物にさせない。私決闘やります! ラーリア先輩と戦います。あ、ですわ!」


「「「「ですわ!」」」」


この場にいた一同が『ですわ』と叫ぶ訳の分からない状況であるが、決闘が成立した瞬間だと気付く。


オリビーはこんなに好戦的だったのか……?


「その威勢。賞賛に値しますわ! 私とロム。オリビエさんとティエラリアさんで決闘ですわ! 特待生の実力をよく知る機会ですわ~!」


え……僕も入っているの……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る