第1話 桜咲く頃に現れる特待生

☆☆☆入学式に咲く一輪の花


桜咲く聖シエール魔法学院の正門に訪れた。華麗な制服を身に纏い歩いていく生徒達。制服を着慣れていない人もいる中を通っていく。


「ごきげんよう~」「あらあら~」「とても美しくありまして~」


皆が期待と不安に胸を膨らませている中。僕が警戒レベルを上げながら正門を通ると、周囲から変な視線が向けられている……まさか、もう性別がバレたのか……!?


「あら、あの子とても綺麗……」「お人形さんみたい……」「髪もサラサラ」


周囲から聞こえるこそこそ話。僕の容姿が褒められているということは、学院に溶け込めていると考えてよいだろうか……?


「……ご、ごきげんよう。あはは~~」


とりあえず愛想笑い浮かべ手を振ってみた。


「「「きゃーーーー!」」」「美しい~~~」「かわいい!」「お花みたい!」


花でも愛でるような褒め方をされ歓声が上がった。すると一人の生徒がこちらへ……


「失礼ですが! あ、わたくしはモキヤラブ・コナイデテと申します。あ、あなたのお名前をお伺いしてもよ、よろしいでしょうか。はぁ……はぁ……」


呼吸が荒くなっている生徒の目は血走っていた。正直言ってかなり怖い。


逃れられないと感じ僕は両手でスカートをつまみお辞儀をした。


「僕はティエラリア・オルコットと申します。お気軽に『ティア』とお呼びになっていただけると幸いです。以後お見知りおきを……」


「「「「きゃーーーーーーー!」」」」「僕っ子きたーーーーー」


「「「「ティア様! ティア様! ティア様!」」」」


こ、困る……どうしてこんなことに……


「趣味は御座いますか? 使っているお化粧は? し、下着の色はぁ!?」


「読書です。市販のものです。さすがに色なんて答えられません」


適当に答える。


「きゃーーー! 読書が趣味なのですか! 素晴らしく麗しい! きゃーーー!」


「お褒めに預かり光栄です。モキヤラブ様。今後ともよろしくお願いします」


とりあえず作り笑いを浮かべる。


「あ……尊すぎます……ティア様……」


鼻血を出して倒れた。なんだろうこの人……この学院はこんな連中が無数にいるのだろうか、だとすれば警戒レベルを上げなくてはならない。


「……!」


そんな時に一際強い魔力の鼓動を感じた。僕の後ろから。つまり、正門を通った人物だ。そちらを向くと……


☆☆☆運命の出会い


「だ、大丈夫かな……こ、この制服……似合ってるかな……変とか思われてないかな……」


片目が隠れそうなほど青色の前髪が伸びており、後ろ髪は一本に纏めている。


一見自信のない落ちこぼれ生徒だと思うが、魔力が異質だ。なぜ生徒達はソレに気付かず僕の方を見ているんだ……


「あの、失礼ですが。今し方正門を通った御方についてご存じですか?」


近くいる生徒に聞いてみると、視線はその人物に集まり――こそこそ話が始まった。


「確か、あの子って今年度の特待生で入学してきた。没落貴族に引き取られた平民出身の子らしいよ――」


平民出身……そういうことか。つまりこの学院ではスクールカーストが存在しており、たとえ特待生であっても平民出身ならばそれはおのずと下に……


つまり、何かしらの不利益が生じるということだろう。この特待生も不幸なことだな……


「なんでも魔法の才能を見込まれて試験成績トップで入学した特待生らしいから、多分制服着慣れていないんだね。凄いんだからもっと自信を持てばいいのに。全然恥ずかしがることなんてないじゃん――」


思ったより好評だったらしい。


「ほんとだよねーすっごく似合ってるのに――」


なるほど、没落貴族の特待生ということは家庭が裕福でない。だから、分不相応な制服に対し恥じらいを感じているのだろう。


「でも、なんかいじめたくなってくるよね……あの子……すっごくかわいいし……はぁ、はぁ……」


一人変な人がいたので聞かなかったことにしておこう。


本人の才能が見込まれ聖シエール魔法学院に入学できたということか、すごいではないか……


「あ……なんでみんな私を見つめて……え? やっぱり変だったのかなぁぁ……あっ! どうしてこんな所に石が落ちているんだ~~!」


すると、特待生は落ちていた石に躓くとバランスを崩す。周りは見ているだけで誰も助けに行く動作がない。


仕方がないか……誰も特待生を助けたがらない。僕は素早く移動。特待生の元へ向かい支えた。


「……はっ! 見ました? ティア様の動き……なんて華麗な身のこなし。音もたてずに特待生に接近しました!」


「所作の一つ一つが芸術的です……なんとお美しい!」


「「きゃ~~~~~! お美しい~~~!」」


一部始終を見ていた生徒達が歓声を上げていた。


「お怪我はありませんか?」


僕が聞くと……


「あ、その、ありがとう……えっと……あ、顔近い。それにすごく瞳が綺麗……美人だ……」


こんな状況で僕の容姿を褒めるとは……


「僕はティエラリア・オルコット。お気軽にティアと呼んでください」


すると、特待生は顔を真っ赤にしていた。


「ぼ、私はオリビエ・エストレイヤ。気軽に『オリビー』と呼んでほしい……本当に助けてくれてありがとう。ティアちゃん……」


『オリビエ・エストレイヤ』聞いたことがない名だ。特待生ならば実力は確かなものだ。


だが、地面に落ちている石に躓くというのは、明らかにどんくさい性格だ。ならば、オリビーは魔法の才能だけで特待生になれたのだろうか?


だが、今後の任務で何かと利用できるかもしれない。恩を売っておいて損はないだろう。


「お構いなく。当然のことですから……オリビー様」


「あの、私緊張してて、それで石に躓いてしまって……」


「一部始終は見ていましたので理解していますよ。オリビー様。ところで、入学式がもうすぐ始まりますのでご一緒に向かいませんか?」


「う、うん! いいの? 私なんかが……」


「きゃ~特待生とティア様が隣を歩いています~とても絵になります~額縁祭りの始まりですよ!」


どうやら僕とオリビーは二人組で見られているらしい。


「あ~~~ティア様のお隣。特待生が羨ましい~~~ムキ~~~!」


やがてハンカチを噛む生徒まで出てきた。


そのまま僕達は入学式が行われる講堂へと向かった。

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