TRPG家庭教師ラプソディ

燈夜(燈耶)

プロローグ

君には趣味があるだろうか?


誇れずとも、打ち込める趣味が。

まあ、あるよな? 一つぐらい。


え? そういうお前はどうかって?


ああ、そうだな。

人に物を尋ねると時は、漠然とでも自分の意見を言うことだ。


で、だ。


そう、俺にも趣味がある。

うん、それはもう色々と。


中には大っぴらに人様に話せるものと、話せないものと。

うん。アウトドアもインドアも、多趣味な俺がいる。


そんな中。

俺には隠れた趣味があるのだ。

それも、一人では楽しむことのできない趣味が。


両親の後を歩いていた幼い時なら、親父とともに楽しんだ、山登りや野山のキャンプ。そして釣り。

元々はそれらが好きだった。


だが。

俺の手の届かないことで世界は変異する。


ことの起りは世界的規模に広まった疾病で、遠くに遊びに行けなかったことが原因だ。ほとんど家に軟禁状態。

学校まで一時閉鎖される始末。

で、担任や各教科の担当とはオンラインで家にいながら授業を受けるんだ。

まったく、息が詰まる日々だった。


だが、そんな俺のインドア生活で。俺は楽しみを一つ見出した。

そう。それはゲーム。



そして、俺はゲームに出会う。

コンシューマーではない。

かといってソシャゲでもない。

PCゲームのMMO? 違う違う。

もっとアナログなゲームがあるんだ。


そう、それに出会ってからと言うもの、俺の趣味はアウトドアからインドアになった。


赤箱、と呼ばれるゲームがある。

原初の巨人が死に、その躯から生まれた世界がある。

力持つ剣が砕け、力が満ちた世界がある。

未開地から押し寄せる、混沌と戦う世界がある。

そして、神々の栄光がかすかに残るも、邪悪に怯える銀の時代を現す世界もある。

かと思えば、機械文明が勃興し、偶然見つけた光。その力を取り出して暮らしに役立てようとした世界がある。

いや、逆に世界は科学技術が滅茶苦茶に進歩し、医学も工学も魔術や神学にさえ、全ての闇を取り払って人々にその実像を開陳した世界がある。

体を義体化し、もしくは魔法で肉体強化し。

体に葉緑素やナノマシンを埋め込み、日向ぼっこするだけで人間が生きていける世界。

また、脳と機会を直結し、サイバネが常識となった世界。

なふどなど。


うん。

俺はそのすべてを遊んだ。

MMOなどをはるかに超えるその自由度にハマったのだ。


その名もTRPG。

本来ならオフラインで遊ぶもの。

顔と顔を突き合わせ、ゲームを仕切るゲームマスターと、数人のプレイヤーからなる対面式のゲームだ。


だが待て。

よくよく考えてほしい。

そう。

この長く続く病魔禍において、顔を突き合わせてゲームなどもってのほか。

マスクをしようと、感染のリスクが高いのは某大学で実験やシミュレートしたウィルス飛散状況を示したデータからも感染リスクは明らか。


そう、人類は新たな敵に遭遇したと言ってもいい。

うん。そんなこんなで俺を囲む社会がそれを許さなかった。


まあ、俺がこれから語るのは、そんな社会の話ではなくて。

もっとライトでポップな話。



TRPGオンラインセッション。

そうとも。

俺はオンラインで相手を探す。仲間を探す。同好の士を探す。


そして見つけたオンラインセッションのURL。

見つけた時に、「これだ」と思う。


俺はそこに登録した。

そして、仲良くなった顔も知らぬ人たちと遊んだ。

仲良くなった。

距離が縮まった。


──と、思っていた。


ボイスチャットのみなも、文字のみのチャットの人も、皆平等に楽しんでいるとばかり思っていた。


そうして俺はオンラインTRPGに傾倒し始める。


今の俺はTRPGが好きだ。

ご飯の次に好きだ。

いや、キャンプの次に好きだ。

ご飯は飯盒やダッチオーブンを使った飯や、渓流で釣った鮎を焼いて食うのが……って、話が思い切り脱線したな、すまない。


まあ、そんな俺の好みとは別に。

繰り返すがこのご時世、ご飯はともかくキャンプは無理。


自然と俺は、オンラインTRPGにハマった。

それも、俺の予期しない方向で。


何故って?


偶然一緒に遊んだ年も顔も知らぬネット友達と遊ぶのが楽しみになっていたのだ。

俺たちは仲良くなったと思う。

そう、ある意味リアルよりも。


俺は思った。

教師や世間が言う、ネットの難しさ、付き合いの怖さなんて嘘。

そう。

なんだ、顔を突き合わせなくとも、気が合う仲間ができるじゃないか、と。

何が「ネットは危険」かと。

よく言ったものだ。


──でも。

そんな俺でも。


リアルで会おうなどとは言いだせない。

社会が、それを許さない。

マスクを外してももう大丈夫だという。

もう、感染リスクは下がったとも。

でも、一度ミッチリ染みついた病魔への恐怖はなかなか拭い去れない。


まあ、理屈だ。

怖いんだ、ネット友達にリアルで会った瞬間、お互いの今までの好意が全て霧散するようで。

それに、お互い素顔を晒すのを、当のネット友達も良しとしなかったのだが。


そして一番の謎は『そのネット友達』は本当に『友達』なのか? という哲学的で、世界の爆弾ともいうべき秘密の壁を突破できていなかったからなんだ。


よくある。

相手が俺と違って高齢、もしくはボイスチェンジャーで「ゆっくり」をまねて話していた、ややもすると外国人。


そんなものが予想されたワケ。


──で。


今から語るこれは、俺が体験する現在進行中の、風変わりな青春の話だ。



そう。

どうしてこうなったのだろう。

あんなに気が合ったのに。

あんなになんでも語り合ったのに。


同じ趣味で。

同じ時間感覚で。


喧嘩になることもなく。

時にはしっかりはっきりロールプレイで。

また時には軽く喧嘩して。


で、もう大丈夫と思った時には、俺はその「ネット友達」と携帯端末のアドレスを交換するに至り。


『ああ、これが友達か』と。


また一生モノの友達ができたと、俺は心を暖かくし。

その『ネット友達』も、毎日のように連絡をくれて。


楽しい日々は、最悪の病魔禍の影を明るい想いで打ち消すに十分だったんだ。


うん。

学校がまた普通に始まって。

それでも、俺はTRPG

TRPGを、そしてその『ネット友達』と。


どちらも辞めることはなく、一見病魔禍も落ち着いた外の社会へ今一度踏み出したんだ。



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