パンチドランカー(2)

 彼に追い出されてから数年後の事だった。ようやく接触が出来るようになったとの事で早速彼の専属だったコーチとカフェで落ち合うことになり、向かった。カフェの1番奥の席に居るということで早速店員に聞き案内をしてもらうとそこには別人の男が居た。私は目を疑った。たくましく筋肉もそこらのボクサーには負けていなかったコーチがやつれて細ってしまっていた。


「あ、あの」

「あぁ。来たのか」

「えっと、彼について。いやそれより貴方について」

「俺は気にするな」

「数年前は……」

「それよりアイツだが、今は病院に入院している。俺があいつを壊したんだ……」

「え?」


 コーチに連れられ、彼が入院しているという病院の一室。ノックし、個室の大部屋に入るとそこには誰か分からない、全盛期の頃の彼とは思えない男が横たわっていた。


「パンチドランカー。お前さんが追っていた病魔に襲われた結果がコレだよ。モハメド・アリより酷い」

「……これが彼?」

「あぁそうさ」

「……近くに行っても?」

「良いが。話にならんぞ」


 私は静かに彼のベッドの横に座った。すると彼はニコッと笑いながら呂律の回らない舌を必死に動かして何かを語ろうとしていた。私は泣いていた。あの鋭いパンチを持つ彼が、1度パウンドフォーパウンドにて、1位の栄冠を勝ち取った彼がほぼ死にかけの老体なんだから。


「彼の病名は……」

「パーキンソン病だ。モハメド・アリと同じくな」

「寝たきり……」


 パンチドランカー。これが彼を襲った脳の病気の1種。そのせいでパーキンソン病となったのだ。私は記事には書けなかった。彼の末路がこれなのだから。


 ☆☆☆


 数年後のこと。彼は亡くなった。彼の遺した唯一無二の遺産である息子を私は今追っていた。彼のDNAを受け継いでいることが容易に分かる程の強さ、プロから伝説へ。


 そんな彼の息子も残酷な運命を背負っていたのだ。

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