愚の骨頂

 扉が蹴られ、破られた。旦那は驚きながらテーブルに置いた包丁を持ち、私の首に突きつけたまま動かずにいた。数秒後、大丈夫かという声とともに警察が数名突入してきていた。これは私が万が一のために警察に電話をかけていたおかげだった。


「包丁をおろせ!!」


 拳銃を旦那に向けて威嚇する警察。それに対し慌てふためく旦那にとてもおかしくなり笑ってしまった。


「ざまあないね!!!!」

「な、なんだとっ?!」

「優しい旦那だと思ってた私が馬鹿だったよ!!」

「お、奥さん、あまり刺激しないで!」


 警察からの制止も無視して、私は旦那をバカにしながら笑った。


「私があんたに抱かれた理由はあんたの金目当てだよ!!」

「は、はぁ?」

「子どもを無理やり作らされたって訴えるつもりだったのよ! 忘れた? 夫婦となる為につけた制約を!!」

「それはお前、物事を無理矢理押し付けないって話だろ」

「私はあんたの母親から子どもの顔が見たいと性交を押し付けられた!!!」

「そ、そんなの身勝手だろ!」

「勝手にあたしの中に出しといて身勝手って。笑わせるなよ」


 警察は拳銃をおろし、旦那も包丁を降ろした。


 旦那はそのまま私に殴りかかろうとしたが、警察に停められて、なんなく捕まった。私は復讐に成功した。そう思っていたけど、世間からの批判は凄まじいものだった。


 それは嫁も悪い

 お互い様だろ

 旦那のやったことは許されるものではないしゴミだと思うけど、旦那の金のために子どもを作ろうとする考えが分からない


 と。


 私の復讐は無駄だった。腹を痛めても身体を痛めても、階段から突き落とされても、何とか犯罪者を摘発しようとしただけだったのに。


 ☆☆☆


 毎日のように扉には張り紙が貼られ、罵られる。毎日のように記者が押しかけてくる。酷い声、酷いカメラのシャッター音。鬱を超える何かになってしまう。


 幻聴に幻惑。


 そして私が産むことが出来なかった赤ん坊に責められる毎日。


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