6章

妊婦と赤ちゃん

 俺の妻はとても健気で、優しく、か弱い。学生時代も妻はとてもピュアでエッチな小噺をするのも恥ずかしがる可愛い子だった。

 そんな妻を初めて抱いたのは結婚してから3年経った日のこと、妻からの誘いだった。


「ね、ねぇ」

「ん?」

「……お義母さんとお話ししてさ」

「母さんと?」

「……そろそろ孫の顔が見たいって言われて」

「……で、でもまだいいんじゃないか?」

「私も30歳だし、早めにその、あなたの子が欲しい」

「そ、そうか」


 妻からの誘いを断ることなど出来ず、俺は妻を思いっきり抱いた。喘いでくれる妻の可愛さ故にブレーキが効かなかった。


 そして何度か身体を抱き合わせていくと、子どもを授かることが出来た。妊娠初期段階のある日、子どもができた報告をするために、俺の実家に妻は1人で電車に乗り実家に向かっていたところだった。


 妻は電車内で思い切り腹を殴られた。


 それも何度も、何度もだ。

 そのせいでお腹にいた子どもは流れた。

 流産だ。


 妻を襲った男は上手く逃げ切ったのか、捕まらずに今も尚ウロウロとしているらしい。

 何故その現場に俺が居てあげられなかったのか自分を責めた。急な仕事とはいえ、断って妻と行動するべきだったと妻や妻の両親に頭を下げ続けた。


 俺の両親は、思いっきり俺を叱ってくれた。


 妻の心が壊れてしまわないように看護師やカウンセラーとともに一生懸命に付き添った。おかげか妻はいつものように可愛らしい笑みを見せてくれるようになった。


 子どもがお腹に居なくても、私が生きているうちはあなたの子どもを授かるつもりです。と覚悟まで言ってくれた。


 俺はそれに答えるように、事件から1年後の春に妻を抱いた。今度こそ、今度こそ。と願い。


 そしてまた子どもを授かることは出来た。


 だがまた妻を悲劇が襲う。妻はひとりで階段を降りている最中、何者かに襲われて階段から転げ落ち頭と腹を強く打ってしまい病院へ運ばれた。


 運悪くその日も俺が居なかった。


 2回目ともなると、俺の責任ではないと両家の両親は慰めてくれた。俺は妻に謝るしか無かった。


「貴方は悪くないです。全部私を襲ってる人が悪いの」

「で、でも」

「……だいすき。子どもはあきらめないから」

「……あぁ」

「だいすき」

「あいしてる」


 甘い言葉を交わす。妻はにこやかな笑みを浮かべるがどことなく哀しい雰囲気が漂う。


 ☆☆☆

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