5章 ひとりめ
猟銃と私
北海道の山奥。祖父の元で育てられた私は、幼い頃から祖父の猟銃を見ていた。祖父は丁寧に猟銃を整備し、いつでも撃てるようにと準備をしていた。猟銃を手にして、獲物を狙う祖父の眼光は鋭くとても怖かったのを今も鮮明に覚えている。
そんな祖父が亡くなったのは私が猟銃の免許を取った20歳の頃だった。
祖父は私の目の前で熊に食われ、死んだ。祖父は痛みでもがき苦しみながらも、私に助けを求めてくれていたのにも関わらず、私は銃を握れず、祖父を助けられずに棒立ちするしか無かった。
満足した熊が去っていく中、私は祖父に駆け寄る。すると祖父は苦しみの中で最期の言葉を言ってくれた。
「何がなんでも助けたいものがあるならば、銃を持て……」
「ごめんなさいおじいちゃん……!!」
「良いんだ。さぁ、警察を呼びなさい。私はもう無理だ……」
「おじいちゃん……!!」
その後の事はハッキリと覚えている。葬式に参列する私に対して周りは優しく慰めてくれた。助けなかったことに嫌味を言う人など居なかった。その優しさが苦しかった。
そこから数年後、OLをしながらも、私は銃を握って熊の退治に勤しんでいた。今も尚撃とうとすると祖父のことを思い出すがそれを振り切るように銃を撃てるようになっていた。
そして私の運命をまた狂わせる出来事が起きた。
私が25歳の誕生日を迎えた日、会社の上司から誕生日会をしようと誘われ居酒屋に行くと、上司ひとりしか居らず、他の人がいないことに不安になりながらも上司の横に座る。すると上司はどんどんとお酒を頼み始め、私はそれを頂いていると、だんだん酔いが回り始めてしまい、身体が言うことを効かなくなってきた頃、上司は私に微笑んだ。
そして気づけば、寝ていたのか朝になっていた。が、私はそこで気がついた。
「え!?」
「やあ、おはよう」
「……は?」
「昨晩は気持ちよかったねえ」
上司がそう言うとスマホの画面を見せつけてくる。そこには気持ちよさそうに喘ぎ声を上げ、身体をビクンビクンと動かす私の姿だった。
「男と居るのに酔っちゃダメだよ〜」
「クソ野郎……!!!」
「これがバラされたくなきゃ分かるよな?」
そこから私のOL生活は地獄となった。上司の言いなりになり続ける毎日、仕事をやめよう、逃げようと考えたがそれをすればあの映像がばらまかれるという不安が襲う。
そして私はお盆、祖父と暮らしたあの山奥に帰り、猟銃を手にしていた。
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