病院のベッドで。

 毎日毎日言うことの聞かない下半身に苛立つ。二度と動かないんだと自分の目で見てもわかるからだろう。毎日のように俺を市民大会に誘った教師は泣きながら謝る。泣かれて謝られても下半身は戻ってこない。スポーツ中の事故であり、誰の責任でもないことに尚のこと腹が立ってしまう。悔しさで毎晩ベッドの枕を濡らす日々。


 リハビリをしようにも気力がわかない。苦しい日々が、それも1日1日が永遠に続くような、終わりのない地獄の道を歩んでいた。そして俺は徐々に感情を失っていった。笑いもしない泣きもしない苦しみもしない怒りもない。ただの木偶の坊となっていった。


 そんな中、あるニュースが放送された。甲子園優勝投手のルーキーがボロボロになっていく様だった。持ち上げられた天才が地に落ちていく姿が自分と重なり、再び苦しいという感情が自分に芽生え始めた。だが、その男は特集が組まれるほどの注目を浴びる存在だった。


 俺には何も無い。高校生活を華やかに送り、柔道生活も充実するものだと思っていたのにも関わらず、こんな仕打ち。


 そして流れる柔道の五輪選考会。普通なら俺もあそこに立っていたのに。悔しさで思わず看護師に嫌な態度をとってしまう。


「……こんなクソみたいな人生なんて!!」


 だが、ふと思いつく。これをエッセイにして書き出して俺の生涯を書けばいいんだと。そう気づいた瞬間俺は紙に書きしため、3週間ほどで完成させた原稿を送った。


 すると、簡単に書籍化することになった。ここで嬉しいという感情がわいた。


 その後、俺は取材を受けた。


 波乱万丈の人生を歩んだ男として。


 ☆☆☆


 目が覚める。嬉しい夢を見ていた。

 どうやら五輪柔道選考会の途中で寝落ちてしまっていた。


 俺は夢で見た内容をやろうとしたが、右手も謎の痺れが襲っていたために動かなかった。何をするにも自由のない病院のベッド。


 死も生もない。ただのベッドに寝っ転がる人形。


「死にたいね」


 ボソッと呟いた言葉。それが叶えばいいのに。

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