死の宣告

 翌日からの練習は多忙を極めた。上級生に回され、投げられ、絞められ、精神的苦痛も絶えなかった。想像をも絶する苦しみに思わず毎晩泣いてしまう毎日になっていた。そんな時、俺の足は悲鳴をあげた。


 パンッッッ!!!!


 何かがはち切れる音が練習中の道場に響いた。上級生はすぐさま練習をやめ、俺の足元に集まった。アキレス腱断裂した恐れがあるとのことで俺は救急車に乗って病院へ向かった。


 上級生の予想は正しく、俺のアキレス腱はズタボロになっており、全治4週間から6週間と診断された。あまりの練習の過酷さゆえの怪我で仕方がないと割り切るしか無かったが、そこから更に追い打ちをかけるように監督は俺に言った。


「あの程度の練習で怪我をするとはな。残念だ」

「え?」

「1年はあっという間。感覚が失われていくのも時間の問題だ。お前は退部しろ」

「え……」


 オリンピックを夢見ていた俺への残酷な宣告。俺はあまりのショックにうつ病も患うこととなった。そこから学校に通うことも無くなり退学をした。


 通信制の学校へと入学したのは秋の事だった。柔道を辞めてからというものの、喪失感が凄まじく、何をするにも気力が無くなっていた。そんな時だった。通信制ではあるものの、1ヶ月に1度は登校するというものがあり、学校に登校した時だった。


「おっ。来たか」

「先生。おはようございます」

「お前柔道やってたんだって?」

「怪我で辞めましたけどね」

「今度の市民大会一緒に出ないか?」


 話を聞くと、どうやら教師も柔道を趣味で楽しんでいるようで市民大会に出ようと5人で考えていたが、そのうちの1人が怪我をして辞退せざるを得なかったようで俺を誘ったようだった。俺は二つ返事でわかりましたと言い、家へ帰った。


 そして半年振りに出した柔道着を丁寧に洗った。


 半年前までお世話になっていた柔道着も久しぶりに見ると大きく感じた。


 そして気づけば市民大会当日を迎えていた。団体戦の1回戦俺は先鋒として出ることになり、久しぶりの畳に立った。


「あぁ、久しぶりだなあ」


 そんな晴れ晴れとした気持ちで立った畳。


 だけどあんなことが起きるなんて思いもしなかった。

 相手の仕掛けた内股だった。俺はもろに頭から落ちたと同時に首を思いっきり捻ったのか、激痛とともに立てなくなってしまった。そして気づけば救急車に乗っていた。


 ☆☆☆


 死の宣告が下された。首の骨が折れていた。それに伴い下半身不随となった。俺は好きな柔道も出来なくなった所か怪我に付きまとわれて、ろくに立てもしない人間になっていた。悲しさゆえに俺は何度も入院中のベッドを叩きつけた。その叩きつけている拳でさえ、弱々しく男気など無くなっていた。


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