人生
お立ち台の景色は素晴らしく、ファンからの声援や時折聞こえるお帰りという優しい声にとても感動してしまい、お立ち台で泣いてしまう事になっていた。
翌日からニュースでは【舞い戻った甲子園の天才】という名目で俺の投球とお立ち台が流れることになった。だがそれをユウキやミチヤは喜んではくれなかった。
ミチヤは既読無視、そしてユウキは投手として独立リーグで苦しんでいるということで既読さえつかなかった。仕方ないと割り切って練習に励んでいたある日のことだった。
「おい、ケイスケ」
「はい!」
「お客さんだぞ」
「俺に客ですか?」
「おう」
突如コーチに呼ばれ練習場の外に出ると、そこにはソフトバンクホークスの二軍戦で打率388、15本塁打を打って活躍しているミチヤが現れた。
「よお」
「ミチヤ」
「調子乗んなよ」
「は?」
「やっとだ。一軍に戻れる」
「良かったじゃねえか!」
「黙れ!」
「え?」
「調子乗んな。何が消えた天才だ。ふざけんな。お前が居なくなった日からどれだけ俺やユウキが比べられてきたか。2番手だの3番手だの言われて」
「ミチヤ……」
「来年の交流戦、絶対ボコボコにするから覚えてろ」
ミチヤは去っていった。俺はあとを追いかけることも出来ず、ただ立ち尽くしていた。コーチから肩を叩かれる数分間ずっとただただ立ち尽くす事しか出来なかった。
☆☆☆
シーズンラスト戦、俺は今季途中から一軍のマウンドに立ち、8セーブ10Hという結果となった。来季を見据えて先輩方に教わりながら過ごしていたが俺を不幸が襲う。春先のチーム主体の紅白戦だった。俺の投げた球を海外選手が打った瞬間俺の肩に直撃する。
「いてええええ!!!!!」
鋭い痛みが襲う。すぐさま病院に向かった結果だった。
「肩の骨折ですね。全治1〜3週間ほどですかね」
「……そうですか」
治るまでの期間、リハビリ期間合わせても1ヶ月から2ヶ月程度はかかってしまう。監督やコーチは残念そうにしていたが、何よりも腹が立ったのはミチヤからの一通だった。
【ざまあみやがれ】
ユウキからは心配の言葉もなく、また1人にされてしまった。悔しさで涙が落ちそうになったがはい上がれば良い。そう決めた数ヶ月後の交流戦、俺は肩の骨折から復帰した初戦だった。
打席にはミチヤ。3球粘られた4球目思いっきり腕を振るって投げた球はすっぽ抜けミチヤの顔面に直撃してしまった。ミチヤは大量の失血でその場に倒れた。俺は危険球で退場となり、その日以降一軍に呼ばれることは無かった。
そこから再びイップスを発症、ミチヤは顔面骨折で数ヶ月試合に出ることが出来ず、ユウキは独立リーグでは最低防御率を記録。あの甲子園準優勝高校から3人プロに上がったうちの3人がプロではただの子どもレベルに成り下がった。
☆☆☆
プロ2年目の春、キャンプの最中に言い渡された残酷な通達。
「……戦力外だ」
「……え?」
「イップスを発症。ろくに投げられない。さらに肩の動きが悪くMAX157を投げていた頃とはうってかわり、今はMAX140km酷いときでは130kmも出ない。流石に置いておけない……。申し訳ない」
「そうですか……」
これがユウキの味わった屈辱なんだろうなと痛いほど伝わった。ミチヤはというと正捕手争いから退きトレードされ、そのトレード先でも怪我やスランプに悩まされた結果、戦力外通告を受けた。
☆☆☆
あの戦力外通告から数年が経った春の日、ユウキは独立リーグからプロに這い上がり、ミチヤはトライアウトにて、日本ハムファイターズに拾われる形となった。結局プロになれなかったのは俺だけだった。
羨ましさ嫉妬苦しみの様々な感情が揺れ動く。
そこからずっと野球から離れ、ただのサラリーマンとして働く人生となった。そして俺は新たにハマった格闘技のプロとなった後、海外選手との試合中、不慮の事故により首の骨が折れ下半身不随となった。
こんなにも上手くいかない人生があるんだなと悔しさでいっぱいになってしまい、病院のベッドから降りて這いつくばりながら看護師に頼んだ。
「俺を殺してくれよ……」
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