無痛症

 母からの手紙を落としてしまい、ヒラヒラと舞う。偶然そこに居合わせた医者は紙を拾い上げ内容を見て言った。


「……大丈夫かい?」

「べ、別に」

「そうかい。ゆっくりするんだよ」


 医者からの優しい言葉。とてもじゃないが気休めにもならなかった。無痛症という化け物相手に仕方なく医者という職業として向き合っているだけにしか思えなかった。


 そして退院の日が訪れた。約5ヶ月半、誰一人として見舞いにくる人はいなく、母でさえ一度も顔を見せなかった。病院に頭を下げて礼を終えた後フラフラと歩きながら病院を出たところだった。


「やあ、退院おめでとう〜」

「……」


 私を襲った人間たちが、次は数十人と大勢を連れて現れた。なんの真似なのかと思ったが、その男たちは私の手に大金を握らせた。


「君のお母さん、良い値段で売れてねえ。これ君の」

「売れたってどういうこと……」

「ま、その金で頑張ってね。あ、そうだ」


 私の耳元で男は囁いた。


【いつでも相手しますよ】


 大勢の人間たちが帰った後、私は足が震えて立てなくなってしまった。地べたに座り込んでしまうと、目の前に母が現れた。


「……あははは」

「お母さん」

「……あんたも私も売られたね」

「……」

「やり直そうよ。ふたりで」

「死ねよババア!!!!」


 私は母親の首を思いっきり絞めあげた。母は嬉しそうに泣いた。


「あーこれが死ぬってことかなあー」

「死ね、死ね、死ね、死ね!!!!」


 病院での騒ぎもあってか、すぐさま止められてしまった。その後警察署に連れていかれ殺人未遂の事件として捜査される事になった。私は洗いざらい全てのことを話したが、警察は確固たる証拠が無いといい立件が難しいこと、そして私が母を殺害しようとした事に違いはないということで、私は実刑判決を受けることとなった。


 母はというと、後に聞かされた話だったが臓器を何個か売られているようで生きているのが不思議だと言うほどのボロボロさだったという。


 ☆☆☆


 牢屋。冷たい空気が漂う。囚人たちから血の匂いがわんさかとするなか、私は罪を全うするために必死に働いた。自分がこの先無痛症と生き抜くには自分の心の制御をしなくてはと考えながら動いていた。


 牢屋の中、突然同じく過ごす女囚人に聞かれた。


「あんた何やったの」

「……言ってはいけないと言われました」

「いいから」

「……殺人未遂」

「そう。あんた私と同類でしょ。レイプされたんでしょ」

「……」

「嫌な思い出だろうけど」


 私は女囚人の首を絞めていた。


「やめなさい!!!」


 すぐに看守が来て、殺さずに済んだが、あまりにも自分の心の弱さに腹が立ち、私は独房の中何とか死ねないかと模索したが、死ねずに結局釈放の時が訪れていた。


「もう二度と来るなよ」

「はい」


 ☆☆☆


 どこに行こうもに居場所はなくフラフラとホームレス生活をしていた中で、川の中から拾った切りずらそうな錆びたナイフを拾う。


 何とかしてこれで死ねないかと何度も何度も切りつけた。だが死ねなかった。しかも死ねない分痛みでリラックスするという効果も得られなかった。悔しさで涙が出る。


 ホームレス仲間にも心配されながら手当を受ける。結局私は寿命を全うした。


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