4章 1人目

権力者

「父さんお金くれよ」

「ったく。10万だけだぞ」


 裕福な家に産まれた俺は、常日頃から金遣いが荒く、父親もそれを許すかのように金を渡してくれていた。月に300万も使う事もあった。


 だが金があれば友人が着いてきてくれる。不細工な顔面の俺にも可愛い彼女が出来た。金はなんでも許してくれた。だがそのぶん、金が無ければ誰も寄り付かないことにも気づく。


 そのイライラを晴らすかのように俺は万引きを繰り返していた。


「……何でこんなことしたんだ!」

「刑事さん。僕の父を呼んでください」

「え?」

「菅原大臣ですよ」

「……大臣の息子だと?」

「早く呼んでください」

「……」


 刑事に頼み、父親とそして父親と長年コンビを組んでいる弁護士が警察署に来る。すぐさま俺は釈放となり、万引きの件も有耶無耶に消された。これが権力者の力なんだと、笑っていると父親は俺の顔面を殴った。


「いてっ……」

「万引きなど二度とするな」

「は、はい」


 殴られて目覚める。罪を重ねれば重ねるほど、父親の立場が危うくなり金がなくなってしまうんだと。


 そこから俺は更生し真面目に過ごし、勉強も出来るようになっていった。そして東京大学という最高峰の大学に進学することが出来るようになり、父も満足気な顔をした。だがそんな生活を狂わせる出来事が起きた。それは父親の再婚だった。


「貴方の新しいお母さんですよ〜。それと妹になるからよろしくね!」


 新たな母と高校生の妹が出来ることになったが、そこからいくら努力しようと、父親は俺を見なくなった。


「ち、父上。今日の成績です」

「そうか」

「見てくださらないんですか」

「見てどうする。俺の跡取りはお前の妹であるミツコに任せるんだから。お前などどうでもいいんだよ」

「……何故ですか」

「はぁ?」

「何故長男である私を見てくださらないのですか!!!」

「長女に任せるのが何が悪い。立場で言えば同じだぞ。それとお前の世帯分けを済ませた後に、お前には1000万やる。家から出ていけ」

「……え?」

「お前はもう要らない。そう言っているんだ」

「……」


 権力者はどこまでも我儘で傲慢なんだと気付かされる。そして後日口座に入った1000万とともに俺は家を追い出される。


 家賃5万円のボロアパートに住むことを決めて在学中でもバイトをするようになった。気づけば東大を退学し、中退の身として会社に就職する事になっていた。


 テレビをつければ父親が妹を政界に入れようと動き回る姿が見える。選挙戦でもガンガンに推していく姿に苛立ちを覚える。自分が悪かったことを反省し更生し、父親に努力していることを認めてもらいたかっただけなのに、見捨てられたことに怒りが収まらなかった。全ては再婚した時に出来た母親のせいなんだと感じるようになって来ていた。


 俺は直ぐに動いた。包丁をカバンにしまいながら母親の元へ向かった。


「あら、久しぶり」

「……うん」

「今回の選挙戦みてる?」

「見てるけど?」

「貴方は出馬しなかったのね」

「父親から見捨てられたという肩書きがついてまわる以上政界入りは難しいだろ」

「あら、思ったより頭脳明晰なのね」

「……ナメてんのか」

「にしても、醜い顔ねえ」


 義母は美しい顔をしていた。だからこそ父親の元嫁である母親に似た不細工な顔面の俺が醜く見えたのだろう。それにしても腹が立ち反論していた。


「僕の顔面は心優しい母の顔面に似たんだ。あんたは心が醜いバケモンだよ」

「……へえ。言うじゃない」

「まぁ心の醜さが顔面にも出るからな。あんたは本当のバケモンだよ!」

「……このガキ」

「良いのか。今俺を襲えばお前らの娘は選挙戦負けるだろうな!」

「くっ……」


 言い返せない状況にまで陥れることが出来たことで満足してしまった。俺は母親の元から去った。


 そこから数年間は落ち着いた生活をしていたが、とある週刊誌に驚きの情報が出回った。

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