縁は切れない

 東京の田舎。空気の澄んでいる田んぼ道を進んでいく。農家が昔から住んでいるという道、東京というドデカイ都市とは違う風景が並んでいることに涙がこぼれ落ちそうになる。グッと涙を堪えながら歩いていると働いている農家たちがスーツ姿の大男たちを怪しげに見つめる。


「……精が出ますね」

「お兄さんどこの子だ」

「……人探しをしているものでして」

「ふーん。気をつけていくんだよ」


 優しい言葉をかけられる。暖かい言葉に会ったのは久方ぶりで、少し笑顔になりながら歩いているとスーツの胸ポケットに手が当たる。カチャという音が鳴る。


 拳銃の音だ。笑顔を辞めた。人を殺しにここに来ていることを忘れないように気を引き締めた。数十分歩いても風景の変わらない中、あるひとつの家を見つける。田んぼの風景に合わない真っ赤な家だ。


「あそこか……」


 俺は覚悟を決めて拳銃を握りしめて家のドアノブを掴むと開いているようでセキュリティがガバガバなことに驚きながらも家の中に入る。声を押し殺し、足音を立てないように歩いていくと、女の艶やかな声が聴こえる。そして漏れる吐息、男の気持ち悪い喘ぎ声が聴こえる。


 寝室にいる事が直ぐにわかる。寝室の入口近く、声を出さぬよう、足音を立てぬように、しゃがむ。女の艶やかな声が大きくなっていく。


「あぁんっっ」

「イクぞっっ!」

「きてええ!」


 果てるまで、幸せな時間を過ごさせてやろうと考え踏み込まずに待っていると男女は果てたようで、ベッドに倒れ込む音が響く。どれだけ強い力で倒れ込んだのか知らないが、ここがチャンスだと思い寝室に踏み込んだ。


「テメェ!!!」

「……えっ?」

「か、母さん……?」


 そこに居たのは、俺をイジメ母さんを襲ったグループのリーダー。そしてそのリーダーに抱かれる母さんだった。


「何してんだ……?」

「あ、あんたこそ!!」

「な、なんで襲われたのに、襲われた……?」

「はははっっ!!!!」


 リーダーの男は大笑いをする。俺を嘲笑うかのように、そして母に思い切りキスをして言った。


「お前の母親は俺に抱かれるために、自分から頼んできたんだよッ!!!」

「……は?」

「お前を虐めてた理由なんて、お前の母親に近づく程度のもんだよ!」

「……」

「お前の母親は酷いよなあ!!!」

「やめて。あの子は私の息子じゃない」

「あぁ、そうだったな。悪かったよ。それよりどうした。そんな拳銃の玩具なんか持って!」

「……玩具だと思うか?」

「は?」


 俺は男に一発撃ち込む。太腿に命中する。


「アアアアアッッッ!!!」

「いてぇだろ。玩具じゃねえよ」

「やめてよ、あんた!!」

「うるせえよ。死ねよババア」


 俺は実の母親の眉間に思いっきり銃弾をぶち込んだ。返り血で男が真っ赤に染まる。太腿を抑えながら俺の元に這いずり靴を舐める。


「何してんだ」

「ゆ、許してくれよお。救急車あああ」

「……なんかアホらしいぜ」

「あ?」

「まぁ、すぐには殺さないさ」


 俺は寝室の戸棚にあった縄で男を天井から吊るした。何時でも殺せるように。


「ゆ、許してくれ!!」

「……この椅子蹴ったらどうなるかなあ」

「や、やだ。首吊りはやだ!!!」

「そうか。俺も嫌だ」

「え?」


 俺は台所からピーラーを持ち込んで男の皮を剥いて言った。


「痛いいいいい!!!」

「……そうか」


 容赦なく剥いていくと肉が見えてくる。


「アヅイイイイ!!!」

「そうか」


 淡々と全身の皮を剥き終わった頃、俺は台所から熱々に熱したフライパンを用意して男の身体に引っつける。


「アアアアアアッッッ!!!」


 復讐を果たすのはこんなにも簡単だったんだと思わずにやけてしまう。そして飽きてきた頃、俺は眉間に一発拳銃を撃ち込んで、事を終わらせた。


 死体の匂いが充満する部屋の中、タバコに火をつけて一服する。汚らしい血が溢れる中、警察が来る。


「……」

「警察だッ!」

「なんでバレたんだ」

「……後ろを見ろ」


 母のスマートフォン。110番の通話が繋がっていた。


「ははは。やられた」


 俺はコメカミに拳銃の銃口を当てて、引き金を引いた。


「……空砲かよ」

「……運に見放されたな。逮捕する」


 黒く重く、そして冷たい手錠が手首にかけられる。複数人の刑事に囲まれ、車に乗せられる。


 そして取調室。


「動機は」

「……」

「黙っているのもいいが……」

「ゴフッ……」

「血?!」


 俺は母とリーダーの男を殺す前に遅効性の毒を仕入れて呑んでいた。

 やっと効いてくれた。そして目の前が暗くなっていく。


 ☆☆☆


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