3章 2人目
地獄
僕は虐められている。それも地獄そのものの虐めだ。
「おい、ロッカー入れ」
「え……?」
「はよ入れや!」
掃除用の道具が入っている教室のロッカー。その中に入れられる。ガタガタと音がしながら複数人に運ばれているのがわかる。そして、とてつもない勢いでどこかを転がる。顔、肩、腰、各部をぶつけながら大きな音を立てて止まる。
何事だと教師が飛んでくるが、僕を虐めている連中は教師さえボコボコにするため、教師も注意することも出来ず立ち去っていく。ボロボロになったロッカーの扉が開く。
「はよ立て」
「す、すみません」
「お前金は?」
「も、もう勘弁してください……」
「あ?」
腹に蹴りを一発入れられる。鳩尾にクリーンヒットする。息が出来なくなり過呼吸気味になっているといじめっ子たちはにこやかに笑いながら言った。
「お前最高に面白いよ。これからも仲良くしような」
「……はい」
学校の授業も全く進まないほどに荒れている底辺校だった。授業中もいじめっ子たちは自由奔放だった。クラスのマドンナである女子を狙い席に近づく。
「なぁ、ヤらせろよ」
「え……?」
思わず僕は間にはさまり、勇気を振り絞って言った。
「や、やめろよ!」
「……殺すぞ」
「だ、だめだろ。女の子を襲ったら!」
「お前マジでイラつかせるな」
「……」
「覚悟できてんだろうな。こっち来いや」
教師もクラスメイトも、そして助けた子でさえ僕の方を見ない。どんだけ蹴られてカッターで切りつけられても、助けも無い。地獄。
☆☆☆
「あんた何その傷」
「……転んだ」
「いやあ、擦り傷とか打撲とか酷いわ。虐められてるの……?」
母は勘が鋭い。いやそれほどまでの怪我なのだろう。だが僕はいじめなんかに負けるわけにはいかないために、母に嘘をついた。
「何言ってんの。今のご時世だよ。いじめある訳なくない?」
「う、うん」
母も気弱な人で僕が少し反論すると黙ってしまう人だった。
父は既に亡くなっている。母子家庭の中、自分が頑張って母を支えるしか無かった。
そんな時だった。
「よお、ここお前ん家なんだなあ?」
「……なんで来たんだよ」
「……来いや」
「分かりました」
僕は母に出掛けると言い、家を出る。
いじめっ子に家がバレたことで今後母に影響があるかもしれない恐怖で怯えながら、そして母に何とかして被害が及ばないように、いじめっ子たちについて行く。
「お前、さっきはよく止めてくれたなあ?」
「……」
「マジで殺すぞ」
「殺す殺すって言葉だけ……」
「テメェ……」
一発殴られる。無痛症になりそうなくらいに痛みに慣れてきていた。
「気に食わねえわ。そのツラ!!」
「……」
「お前の母さん美人だなあ?」
「やめろ!!!」
「あ?」
「母さんに手を出したら殺すぞ!!」
「……へえ。どうしよっかな」
「クソ野郎……!!」
「嘘だよ。お前がそんなに怒るなんてなあ?」
明らかにいじめっ子たちは僕の母を狙っていた。母はここだけの話元AV女優だから顔を知られていてもおかしくは無かった。
だからこそいじめっ子から守りたかった。
だけど。
☆☆☆
「母……さん……?」
「おかえりぃ。あははは」
母さんは男の白い液体で汚されて床に倒されていた。上に乗っていたのはいじめっ子のリーダー。
「ふざけんなよ!!!!」
「バレちゃったねえ。お母さん?」
「……お願い。ヤらせてあげたんだからうちの子にもう手を出さないで」
「……お母さんそんなお願いの仕方ダメでしょ」
「またヤらせてあげるから……」
「ん、おっけー」
「ふざけるなああああッッッ!!!」
「いいのよ。あなたが守れるなら」
「ああああッッッ!!!!」
☆☆☆
「今日お前ん家の母さんとヤるから帰ってくんなよ」
あの日から数ヶ月。何も出来ず母を守ることも出来ずに家を占領される形になってしまっていた。そして高校も卒業したのち、僕は母を守る為にとヤクザとなった。
「……母さんを守るためねえ。良いじゃねえかよ。お前を1人前にしたる」
ヤクザになった後、それを知ったいじめっ子たちは母さんを襲うことをやめた。そして雲隠れして居場所が分からなくなっていたが、必ず探し出すと決めて裏の世界へ足を踏み入れた。
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