失踪

 タカシと娘が仲良くし始めて数日が経った頃だった。俺と妻は野暮用があり、少しばかり実家を離れて、車で30分のところに来ていた。その間、娘は親父とお袋、そして仲良くしてくれているタカシに任せることにしていた。


 祖父祖母それに子どもの知り合いひとりが居れば遠くに行くことは無いだろうと、勝手に油断をしてしまっていた。


 そして運命の歯車は狂い始めた。


「お、おい!!!」

「んだよ、親父」

「お前の娘が!!」

「え?」


 親父がきた連絡はタカシと俺の娘が失踪してどこにも居ないという連絡だった。妻と共に急いで実家に戻ると親父もお袋も探しに出ているのか姿が見えない。妻と別れ、必死に探し回る。森林や田んぼ、奥地まで行ってないことを願うばかりだった。


 そして夕暮れとき。親父やお袋の知り合い、そしてこの周辺の人間たちが必死に探してくれていたが見つからなかった。神隠しにでも合ったかのように。


「すまねえ。すまねえええ!」

「親父のせいじゃねえよ。というかタカシくんがどこ行ったんだ」

「あ、あの」


 声をかけてきたのはタカシの母親だった。


「私の愚息が本当に申し訳ありません」

「タカシくんも行方不明なんです。貴方のせいではありません。元はと言えば目を離した我々に責任があります」

「タカシはいつもこの森の奥に遊びに行っているみたいなんです……。でも居なくて……」


 日は完全に落ち、捜索が難航になる。俺は先に警察の仲間たちに電話をかけた。


「おい、俺だ」

「先輩?」

「応援要請を頼む。俺の娘が行方不明だ」

「なんですって?!」

「明後日からでも明明後日からでもいい。頼む!」

「……分かりました」

「ありがとうな」

「先輩らしくないっすよ。一応こっちで色々やっときますんで」

「頼むぞ」

「ういっす!」


 後輩に応援要請を頼み、翌朝の早朝、俺は誰よりも早く探し始めた。タカシの母親の言う森の奥地に入り込んだ。迷路のように入り組んでいる道の中進んでいくと、娘のサンダルが一足落ちていた。


「お、おい。居るんか!」


 返事はなかった。サンダルを拾い上げ、さらに奥に進むと木々に囲まれた中にビニールシートが引かれている場所を見つける。そこには娘のサンダルもう一足と、タカシが着ていたと思われる洋服が置いてあった。なにかの止血に使ったのか血だらけだった。


「なんだこれ……」


 俺の天使が手元から消えてから焦りと苦しみで息がしずらくなっていた。


 森の奥から出てサンダルを見つけたことを報告しようと妻の元に行こうとした時だった。


「先輩!」

「早いなお前ら」

「娘さんどうすか」

「……サンダルと何かを止血したのかタカシという少年の血だらけの服だ。タカシくんはもしかしたら裸で動いているかもしれん」

「急いで探さないとっすね」


 総動員で探し始める。この光景はニュースにもなった。森の奥地に再び入り、先程ビニールシートの置いてあった場所から3方向に別れて捜索を開始した。


 何も手がかりはなく、行方知らずの2人が見つかることを祈るばかりだった。進んでいくと綺麗な川に出逢う。


「……川」

「先輩」

「あぁ、この奥には行かなそうだろう」

「探してみますか?」

「……子どもの身体でここを乗り越えられるのか?」

「子どもってのは不思議な力があります。探してみましょう」


 後輩の言う通りに俺は服が濡れるのなんて気にせず突き進む。ぬかるんだ土に足を取られながら、進んでいくとビニールシートの引かれた場所があった。


「なんだこれは!」


 そこに置かれていたのは同人誌だった。もしかすればタカシに襲われ、娘が必死に逃げる中、タカシがなんらかで怪我をして止血用に服を使ったのならばと刑事の嫌な予感が走る。


「お前はあっち行け!」

「先輩ひとりで大丈夫っすか?」

「いいから。任せろ。そっちは任せたぞ」


 さらに2方向に別れて探す。


そして見つけた。タカシと俺の自慢で天使で可愛い娘を。だがその光景は俺をキレさせた。

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