失
私は泣いていた。カウンセラーのヤマハタさんは私のことをギュッと抱きしめ、ゆっくり落ち着くようにと言ってくれた。その間子どもはリハビリと称して病室から出て同年代の子どもたちとの交流へ行った。
「す、すみません」
「謝らなくていいんです」
「……」
「頑張ってましたもんね。お辛いでしょうけど今はゆっくり深呼吸しましょう」
「……はい」
私は3度ほど息を吸い吐くを繰り返した。少しだけ頭がスッキリした。私はヤマハタさんの方を見て愚痴をこぼしていた。
「小学生の頃からずっと優等生を演じてきて、大学の頃ようやく自分の全てをさらけ出せる人に出会って結婚して、頑張って頑張って頑張って頑張って生きてきたのに……」
「うん」
「なのに、子どもは先天緑内障。それのせいで元旦那は病気の子どもを持ちたくないと不倫。セックスレスだったせいもあるけど」
「うん」
「……私は何のために生きているの?」
私は話しているうちに死にたい。そう思うようになっていた。ヤマハタさんは聞いてはくれるものの、聞くだけで特に何もしてくれなさそうだった。赤の他人に何を求めているのかバカバカしくなった。
「ごめんなさい。やっぱりもういいです」
「え?」
「帰って」
「え、でも」
「帰れよ!!」
声を荒げてしまった。驚いた表情を見せてカウンセラーは数秒後病室を出て帰って行った。あまりにも自分が惨めで無様で最悪でしか無かった。
☆☆☆
そんな子どもと過ごす日々、失語症は治る訳もなく、言い間違えや理解力の乏しさ、書いているものの間違えに学校の教師は頭を抱えているらしい。特別学級に居れることも考えられた。
何とかして治してあげたい。そう思っていたがそんな矢先、私の子どもは失語症が原因で皆から虐められていることを知った。幼い子どもたちには理解が及ばない事もあるだろうから守ってくれと教師に伝えていたにも関わらず、守ることもせず見事にイジメの対象になっていた。
私は校長室に直談判しに行っていた。
「ふざけないでください!!」
「だから我が校にいじめなんてありませんよ」
「あります!」
「はぁ。お母さんね。証拠もなくガミガミと」
「腐れ外道共が……!」
大量の資料を校長の顔面になげつけた。
「これが証拠だよッ!!!」
「なっ?!」
「テメェらで読んでみろよ!!」
私は必死にかき集めた証拠を教師たちに読ませた。教師たちは顔を真っ青にしたが、それでも我が校はイジメはない、これはただのジャレだ。と言った。あまりにも腐れ外道すぎるが故に私は転校を考えた。
だが考えが甘すぎた。私の子どもはイジメに耐え兼ねて自殺を行い、死んだ。
「……えへへへへへ」
葬儀場。たくさんの噂がされる中、私の悪口を言う人は誰も居なかった。私のそばに来てくれる人全員が私のことをギュッと抱きしめてくれた。
「大丈夫よ。頑張っていたの知っているから」
「……ありがとうございます」
私の母は私の傍から離れないでいてくれた。そして葬儀場に元旦那の両親も来ていた。
「あ……」
「……ユ、ユウコさん」
「ご無沙汰しております……」
「こんな所に顔を出すべきではありませんが、すみません」
「いえ、来て下さりありがとうございます。あなた方の孫でもありますから」
「そう言っていただき、本当にありがとうございます。是非ご焼香を上げさせていただきたいのですが」
「お願いします」
私は事務的なやり取りをした。焼香をあげた後、元旦那の両親は私に土下座をした後、帰って行った。
「……お母さん」
「な、なに?」
「どうしたらいい?」
「え?」
「子ども、旦那も失って。失うものなんて無くなっちゃった」
「ユウコ……」
私はどう生きればいいのか分からなくなっていた。
実家に帰ってきて、目を閉じると幸せな家庭がチラつく。でも目を開ければ母と父が居るだけで旦那も子どもも居ない、心の拠り所さえ無いただの空っぽな家。
父や母に迷惑をかけたことを詫びながら遺書を書いている時間は苦しかったが、生きるより苦しいことは今は無かった。
朝を迎え、父と母が仕事に行った頃、遺書を父と母の寝室に残して、私は子どもを追って飛び降りた。
【真面目に生きていただけなのに】
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