崩壊は止まらない

「監視カメラだってある。あんたらの不倫は全部録画されているんだよ。そして今ヒロ、あんたのお母さんに全て送ってるから!」

「なっ?!」


 旦那は顔を真っ青にした。不倫の証拠を全て撮られているというのであれば逃げ場がないからだろう。そして母親に送ることによって自分の息子の不甲斐なさを母親にも後悔してもらうために送っていた。


「クソアマがあああっ!!」


 ヒロは私の首を絞めようとしてくる。私は首を掴まれる前に言った。


「あんたここで私を殺したら、女と暮らせない。毎日セックス出来ない、子どもはあんたの不倫相手の女に行く。そして養育費を払うどころか一生罪と償っていかなきゃダメ。人生終わるね!!」


 私はニコニコの笑顔で言った。旦那は顔をさらに青く染め、女は逃げようとカバンを持って玄関に辿り着いた時だった。家のチャイムが鳴る。警察が来たのだろう。


 女が恐る恐るドアを開けた。その瞬間警察が飛び込んでくる。


「大丈夫ですか?!」


 旦那が私の首を絞めようとしているところを目撃される。旦那はこれで終わった。


 後日のこと、私の両親、彼の両親、そして不倫の女の両親の三者両親が揃い踏み。彼は責められ女は両親から勘当され、そして私は子どもを引き連れて実家へ帰ることとなった。裁判が終わったのはかなり後のこと、彼の不倫によることで慰謝料、養育費を貰えることとなった。


 これで一件落着だと思っていた。


 ☆☆☆

 数年後のこと、子どもが小学校を無事卒業した。私に気を使っているのか絶対に父親の話はしない察しの良い子どもに育っていた。


「卒業おめでとー!!」


 私は両親とともに子どもの卒業祝いに来ていた。子どもはニッコニコの笑顔で美味しい料理に舌鼓を打っていた。


 その日の夜だった。


 ――――――ピーポー……ピーポー……


 子どもは交通事故にあった。子どもを引いたのは元旦那のヒロだった。私への腹いせだったんだろう。私は子どもの手を握りながらお願いだから生きてと祈った。


 病院に着いてから直ぐに緊急手術となった。


 何時間経ったのか分からない頃、パッと手術中の電気が消える。


「せ、先生!!」

「無事一命を取りとめました。これから力のある限りお子さんを大事に、大事に治療していきます」

「ありがとう……!!!」

「いえ、まだまだ予断は許しません」

「は、はい!」


 何とか一命を取り留めてくれた。元旦那のヒロは牢獄に行った。


 ☆☆☆


「ママ。おはよっ」


 子どもは無事生き延びて、入院生活とリハビリ生活の毎日を送っていた。私は会社に事情を説明し1年の休暇を貰っていた。すごく苦しそうな顔をしながらリハビリする子どもの姿に、私は元旦那のヒロへの怒りが湧く。


 そして面会へ向かっていた。


「アンタが殺しそうになった私の子どもは生きてるわよ。しかもなんの後遺症もなくね。無駄打ちよ!」

「……クソが」

「へへっ。あんたマジで頭おかしいんだね」

「うるせええ!!!」

「ふん。一生牢獄に居て欲しいくらいよ」

「クソが。クソが、クソがあああ!」

「おい、暴れるな! 面会を終了してもらう」

「えぇ、どうぞ」


 私はスッキリした。これで彼が数年間、いや、数十年間牢獄から出てくることは無いと思うと自分の子どもの命の心配も無いし、やっと全てが終わったと感じていた。


 面会から帰り、病院に向かうと子どもは真剣そうな顔でリハビリをしていた時のことだった。子どもはテレビを指さしてメガネ、と言った。


「え?」

「メガネ!」

「ち、違うよ。テレビだよ?」

「あ、うん」


 ただ言い間違えたんだろう。後遺症なんてない。そう自分に言い聞かせた。だが、子どもは何故か違うものと違うものが混同しているのか、言いたい言葉と違う言葉を発していた。


 さらには私が色んな説明をしてあげたのだが、その説明に対し理解が及ばなかった。そして挙句の果てには【マシュマロ】を書かせようとしたのに、子どもは【マシュマロ】とは書かず【まろまろ】と書いた。


「おかしい……」


 私は医者に相談をして詳しく検査をしてもらった。その結果。


「お母さん。非常に言いにくいのですが、失語症ですね」

「え……?」

「お子さんは事故の際、頭を強くうちました。そのせいで脳へ障がいが起きて失語症の原因となりました。ですがリハビリすることで1年や2年ほどで治る可能性もありますからゆっくりやっていきましょう」

「……私は真面目に生きてただけなのに、なんで」

「お、お母さん?」

「えへへ……真面目に生きてたんだけどなあ」


 医者は慌ただしく動いていた。私はボケーッとしたまま子どもの病室にいた。


 すると子どもの病室に1人の知らない女性が入ってくる。子どもの誰かなんだろうと思って挨拶をしようとした時だった。


「お母さんですね?」

「え、はい」

「私、カウンセラーをしております。山端です」

「はぁ。ヤマハタさん」

「お母さんとお話をしてみたくて伺いました」

「え?」

「実は、貴方のお子さんの担当医からお母さんの精神が壊れそうだと相談を受けまして」

「……」

「自分では分からないところで、相当ショックを受けていらっしゃるでしょうし、愚痴くらいなら私どもに聞かせていただければと」

「……」

「お母さん?」


 私は泣いていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る