壊れゆく家庭
先天緑内障と診断されて、手術を行ったあの日からもう早6年が経っていた。子どもはもう小学生に上がる年齢になっていた。特に病気もなく育ってくれて、私たち夫婦の仲も良好だった。だがそんな時だった。夫のスマホを思わず覗いてしまった時のことだった。
「え、なにこれ」
私は思わず目を伏せたくなる現実が飛び込んできた。浮気相手とのメールだった。それにハメ撮り。いわゆる相手との性行為の動画が残されていた。思わず夫に問い詰めたくなったが、何かの間違いかもしれない、疲れて幻惑を見ているんだと今は考えないようにしていた。
そして夜を迎えた。私は家事と仕事の疲れで夫よりいち早くベッドに寝ていると、夫は私の身体を触りながら言った。
「なぁ、もう2年くらいしてねえよ」
「……うん」
「しようや」
「ヒロごめん。無理」
「そっか。分かったよ」
2年やってなくレスになっていたのは事実で、あの浮気メールさえ無ければ今夜調子が良くて疲れはあるもののやってれば忘れるだろうと思ってやろうと考えていたのに、あのメール。やる気を完全に削がれたこと、そしてほかの女を受け入れた夫の無責任な下半身にイライラしてしまった。
「……先寝るね」
「おう」
夫の冷たい声が脳を刺激する。思わず問いつめてしまいそうになったが、まだ子どもが小学生、それも1年生ということで問い詰めることなんて出来なかった。
そして翌朝、私が朝食を作り終えて子どもに食べさせ夫にも食べてもらおうとした時だった。メールにご飯はいらないと書いてあり、既に仕事に向かっていたようだった。
温かく湯気が出る、せっかく作ったご飯が冷たくなるのを感じていた。作った意味がなく無気力になってしまった。
子どもを小学校まで送り、無気力のまま仕事へ向かった。身に入らず上司にこっぴどく怒られてしまいヘトヘトになり帰った時、子どもがひとりでお留守番していた。
「お、お父さんは?!」
「……知らない」
「え、何その態度」
「ふん」
「ふざけんな!!」
――――――バチンッッ
私は子どもを叩いていた。
子どもは泣くことはしなかったがそれ以降翌朝まで口を聞いてくれなかった。
そして夫は3日間連絡もなく、帰ってこなかった。
☆☆☆
とある夏の日だった。子どもが夏休みに入る手前のこと、私は夫の両親と会っていた。
「ねえ、どういうことかしら。ヒロを裏切って浮気する気持ちは」
「は、はい??」
「とぼけんじゃないよ。小娘」
「え?」
「あんたが浮気していることはもう分かってるんだよ!」
「し、してません!」
私は急いでスマートフォンを取り出した。夫の母親に浮気をしていない証拠を見せつけるため全ての情報を渡したが、母親はさらに疑いをかけた。
「どうせ自分が不利になる証拠は消してるんだろう?」
「してませんっ!!!」
私は検索履歴、トーク履歴、全てを消す理由もなかったために言いがかりにとても腹が立った。
「そもそも私じゃなくてヒロさんが浮気してますから!」
「その証拠は?」
「わ、私あるんですから!」
スマートフォン。スクリーンショットを開いてあの日見た夫の浮気メールの写真を探した。確かに保存したはずなのに無くなっていた。
「あれ?」
「ほら、無いんだろ!」
「……確かに保存したはず」
「あんたは旦那の携帯を勝手に見たのかい!」
「み、見えただけです」
「ふん。ふざけんじゃないよ!」
「……もういいです」
私は思い切り立ち上がり、即刻家に帰った。その時だった。知らない靴、知らない女の香水の匂い。恐る恐る寝室を覗いた。
「ねえ、ヒロさん。いつ離婚するのよ〜」
「ごめんって。俺の両親は仲間にしたから任せろよ」
「ホントにぃ。はやくしてよぉん」
「あぁ。愛してるよ。ヒナコ」
「私もっ!」
寝室で行われる浮気現場。私は万が一があるといけないと思い先に警察に電話をかけた状態で現場に突撃した。
「ふざけんじゃねえよ。この浮気男!」
「なっ?!」
「この泥棒猫、テメェ死ねよ!!」
私は思いっきり罵声を浴びせた。その後だった。浮気相手の女は私の近くに寄り言った。
「セックスもしてあげないで、子ども子どもばかり。自分は家事をやって、仕事やって疲れてますとか有り得ないでしょ」
「子どもが産まれたら子どもを優先にする。2年近くやらなかったのは悪いと思っているけど、あなた子どもを産んだことは?」
「ないけどぉー?」
「すごく痛いのよ。切開したりして色々あるし、私の場合酷くてやっとここ最近エッチできるかなと思ってたところなのに!」
「ふん。言い訳でしょ。というかあんたの子ども病気持ってんだってー?」
「だからなによ」
「病気持ちに産んで子どもがかわいそぉ〜」
私は我慢した。警察を呼んでいる。警察に声が届く範囲で喧嘩をしている。何かあればすぐ来るはず。
「反論なし〜?」
「うるせえよ」
「口調変わってるんですけど。ウケる」
「……離婚はしてあげる。だけどたっぷり慰謝料もらって、アンタらの人生狂わしてやる」
「こっわーい。でも証拠無かったら意味無くない〜?」
「これだからギャルは」
「は?」
「私がなんにも用意せずに突撃したと思ってんの」
「は?」
「ふふ。バカは大概にして欲しい。ヒロもね」
私は監視カメラを家の中につけていた。こっそりと入念に準備を重ねていた。
家庭が壊れていく音はこんな音なんだなと感じていた。
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