自分を殺すことが役に立つ唯一の方法
大量の薬を飲み込み、有り得ないほどの具合悪さに襲われる。目眩、口渇、痺れ、浮遊感。何もかもがバカバカしく思えていた。ゆったり、ゆったりと台所に向かい水をがぶ飲みする。すると、鍵が開く音がした。僕はフラフラする中、急いで自室に向かい、鍵を閉めた。
すると扉を叩かれる。
「ユウキ。鍵開けて」
母の声だった。だが僕は妙な胸騒ぎがした。アオイがいるような。そんな感じだった。僕は母に聞いた。
「ア、アオイは」
「居るわよ」
「帰ってもらってよ」
「話があるんだって」
「良いから!!」
僕はお母さんに初めて声を荒げた。母は驚いたのか一言謝って、アオイに帰るように声をかけていた。お母さんごめん。この言葉以外何も出なくなっていた。そして自室の中、薬をまた服用していた。
スマートフォンの光が何故か心を壊してくるような気がした。スマートフォンをベッドに投げつけた。そして何やら囁かれている感覚に陥っていた。
――――――お前はいらない子
――――――お前はなんで生きている
――――――なぜお前が生きて、俺が死んでいるんだ
僕の亡くなった父にそっくりの声だった。父は冥界から僕の不甲斐なさに怒り心頭で蘇って僕に死ねと囁いていた。気づけば大粒の涙がこぼれ落ちていた。希望も夢もない。僕は死ぬべきなんだ。お父さん待っててね。
僕の自宅はマンションの7階に位置していた。僕はベランダに飛び出した。
「あはは。お父さん待っててねー!」
僕は飛び降りた。
☆☆☆
知らない天井。機械音。気持ち悪い。
「ユ、ユウキ。起きたのね!!」
知っている人の声。そして僕は状況を把握した。死ぬのに失敗したのだ。
そして、知った声がもうふたつ聞こえてくる。
「ユウキ……」
「ユウキくん」
アオイとアオイの母親の声だ。僕は小さく振り絞って声を出す。
「……死ねなかったんだ。あはは」
「な、なんで笑ってるのよ」
アオイが答える。
「えへへ。アオイ。かわいくなったね」
「な、何言ってんの?!」
☆☆☆
数日後、自殺できなかった理由が判明した。僕の落ちた先に柔らかい木々があったおかげで、吸収され身体を打ち付けたものの、生死に関わる状態にはならなかったらしい。
なんか死ねなかったな。悔しいな。と気分は変わっていた。一度の恐怖が無くなり、父からの死ねという声も今は聞こえない。
僕は再び検索していた。どうやら薬の副作用で幻聴が聴こえることがあるらしい。僕はそれに惑わされて飛んだという事が分かった。
実にアホらしかったが、死んでいれば全てから逃げれたのにとも思っていた。
退院後、僕はアオイやアオイの母親、そして自分の母親に監視されるようになった。怪しい行動をしないようにと。
それがまた僕を苦しめた。
何をしようと母の視線を感じる日々、ベランダに出ようとすれば電話がかかってくる。学校からは僕の知らないうちに担任が捕まり、担任が変わったことを知らされ、更に変わった担任から学校に来いと毎日のように圧をかけられる。
何をしても不自由。自分が惨めで仕方なくなっていた。そして僕は監視カメラも無い、アオイの目も無い場所へ行きたいと考え始めた。
母が帰ってきて、晩御飯を食べ、母が寝静まった頃、母のへそくりを全額持ち出し、8万円を握りしめて僕は家を出た。スマートフォンでタクシーを呼び、タクシーに乗り込み8万円分で行ける遠くの場所まで連れて行って貰った。タクシーの運転手は流石に怪しんではいたが数時間後のこと8万円分の距離を進んでくれたタクシーが止まった。
「お客さん着きましたよ」
「ありがとうございます」
「えぇ。お気をつけて」
運命が左右したのか、最後に僕を神様は導いてくれたんだと思った。
着いたのは自殺の名所だったからだ。
そして僕は靴を脱ぎ、服を脱ぎ。全裸で飛び降りた。
夢も希望も全てを女の子からの陰湿ないじめで奪われ、アオイと離れ離れになり、母には迷惑をかけた。
そんな自分が初めて死ぬ事で役に立てた。そう落ちながら考えていた。
「あはは。この世界とおさらばだ。僕は若林っていう獄中で死んだ人と同じで行動力はあったんだ。アハハハハ!!」
僕は僕を殺すことが必要だったんだ。
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