傷が心を癒し、身体をイジメ抜く
数日後の朝、学校に行ける気力などなく布団にもぐりこむ。母はちらっと僕の様子を見に来る。布団にもぐりこんでいる僕に対してどんな気持ちでいるのか分からず、ヒステリックになりそうだった。しかし、母は優しく僕の布団に手を置いて「大丈夫だよ」と声をかけてくれた。
「……お母さん」
「……仕事行ってくるね」
母はそう言って仕事へ出た。母が仕事に出かけた数分後に家の電話が鳴る。恐る恐る出ると担任からの電話だった。
「おっ。ユウキか。学校は来れそうか」
「す、すみません」
「そうか。うつ病はずっと闘わないといけないからな。来れそうな時でいい。ゆっくりで良いからな」
「ありがとうございます」
「おう。じゃあゆっくり休めよ!」
担任は暖かく優しい言葉をかけてくれた。その反面、僕が学校に行けないことに対して、本当はどう思っているのか、情けないやつだと思われているんじゃないかと思考が頭を駆け巡る。うつ病と頭が理解してから何故か前よりもネガティブに陥りやすくなっていた。
何とか心が落ち着くようにと、薬を服用するがその薬も効き目を感じられなく、ちょっとずつ、ちょっとずつと服用する量が多くなってきていた。
そうしているうちに薬が無くなり、どうにか心を落ち着かせる方法がないのか調べていると、とあるサイトで僕と似たような境遇の女性が書いている記事があった。そこにはリストカットを行うと頭がスッキリして心が落ち着いたと書いてあった。
ここで初めてリストカットという言葉と、リストカットというものを知った。記事には痛みが酷く深く切りすぎると死ぬ可能性もあると書かれていた。でも僕は死ぬ死なないよりも心が落ち着かない方が気になって仕方なく、台所にあった包丁を手に持っていた。そして。
――――――シャッッ。
腕を切った。浅く切りつけたおかげで痛みはそこまで無かった。もう少しだけ深くしようと刃筋を立てて深く入れ込むと凄まじい痛みが襲う。思わず包丁を落としてしまった。
――――――カシャンッッ……
台所に響く包丁を落とした音、流れ出る血。そして何故か痛みによって無心になれていた。痛みだけを感じ、痛みだけが僕を支えた。何も考えずに包帯を巻いて母にバレないようにする作業に移った。
「……これがリストカットなんだ。痛いけどなんか心地いいや」
僕は腕を切りつければ心が落ち着くという味を覚えた。薬よりも何よりも痛みが僕の味方なんだと。そう考えた次の日から学校に行けるようになっていた。
☆☆☆
リストカットを覚えてから数週間、毎日のように行うが地味にかさぶたが邪魔なことに気づく。僕は腕以外の場所でカットが出来ないのか検索していた。するとリストカットではない別の方法が沢山ヒットした。
僕はこの日から痛みと友達になって、嫌なこと全て忘れようと決めた。
タバコの火を自分に押し付けるという方法が1番身近で出来ることを知った。母がタバコを吸っているというのもあり家にカートンで置かれていることが多くタバコ1箱母から盗んだ。
幸い母は追加分のタバコを買ってきていたおかげでバレることは無かった。その日から母が仕事に行ったあとの数分でタバコに火をつけて自分の太ももの付け根に押し付ける。
「ああぁっっ!!」
とても熱く燃える。身体が痛さ熱さで震え上がる。だがその快感が僕の心を落ち着かせた。生きるために僕の心が休まるためにやらざるを得なかった。仕方ない。仕方ない。と割り切った。
数日後僕は病院の通院に来ていた。
「変わったことは無かったかい?」
「いいえ」
「自傷とかしてない?」
「……」
「どした?」
「い、いえ。してません」
医者からの質問にドキッとした。やはり自傷は多くの患者がしているんだろうと思った。医者は少しばかり不思議そうな顔をしたが、何とか僕は免れた。
「うん。良好だね。困ったこと、不安なことがあったらいつでもおいで」
「はい」
☆☆☆
しかし、僕の自傷の日々は終わりを告げた。
「おい、お前なんでこんな怪我してんだよ」
「……山田くん。内緒にしてよ」
「はぁ?」
「別に君に関係ないでしょ」
「親に虐待でもされてんのー?」
「ふざけるな。されてるわけないだろ!」
「お、怒んなよ!」
学校のジャージに着替える時、最善の注意を払っていたがチラッと包帯が見えてしまったのかクラスメイトの山田にバレてしまい更衣室はザワザワと騒ぎが起きてしまった。
そして山田は僕の思った通り教師に告げ口をして、母が虐待をしているんじゃないかと騒ぎ、僕の事を考えもしない発言をした。
僕は気づけば山田を殴っていた。そして僕は自傷行為の全てを母に、そして教師に知られてしまった。
「ユ、ユウキあんた」
「……ごめんなさい」
この日から家にはタバコもライターも、包丁もカッター、刃物になりそうなもの、腕を傷つけることが出来るもの、火傷になりそうなもの全てを隠されてしまった。突然心の休まるものを全て奪われた動揺で頭がおかしくなりそうだった。
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