心中

 決行日当日の夜、俺は目がギンギンになっているのを感じていた。緊張、そして失敗できないという不安と焦りが入り交じる。有刺鉄線の針金でカチャカチャとできるだけ音の立たないように鍵穴を開ける。小僧も上手く施錠を外すことができたのか気になるところだったが俺は少しばかり遠回りして出入口の確認をしていた。


「ちっ。やっぱ無理か」


 出入口には看守が2名控えており突破は難しかった。仕方なく爺さんの隠れ扉にしようと小僧と合流した。小僧にそれを伝えて秘密扉に着いていた。その扉の入口はあまりにも狭く、通り道も人間が手で掘ったということもあり、線の細い男1人がギリギリ通れる範囲だった。俺は脱獄を諦め、小僧ひとり逃がす。


 既に見回りの看守が起き上がり、巡回中だと言うこともあって牢に戻るまでに必ず見つかることが確定していた。だからこそ想定外のことが起きたとき用に俺はこっそりと炊事場から盗んでいた包丁を構えながら動く。


 そして数分後獄中に鳴り響く警戒音と、看守の慌てふためく声。


【牢からの脱獄者2名、見つけ次第直ぐに捕らえよ!】


 獄中で心中すると覚悟を決めて、俺は看守たちから必死に逃げ回った。通る道、通る道看守たちが動き回っていた。逃げ道がなくなってきたころ、俺はとうとう見つかる。


「若林!!!」

「はははっ」

「もう1人はどうしたああ!」

「知るかよ」

「……若林、武器をおろせ!」

「うるせえ!」


 絶対に看守は殺さないように、だけれども俺に近づけないように包丁を振り回す。看守たちは警戒しながらジリジリと俺を包囲する。


「へへへへ」

「な、なにをしている!」

「あばよ!!!」


 俺は看守たちが半径おおよそ1mに近くなった頃首に包丁を突き刺した。大量な血しぶき、綺麗だった。今まで見たどんな景色よりも。


 小僧は逃げきれたのか、とてもとても気になったが俺の生涯はここで終わりを告げた。


 ☆☆☆


「――――――速報です。脱獄を試みたとされる逃走犯は2人おり、1人は先程速報でもお話した通り実の両親を殺害後、自らも命を絶ったようですが、もうひとりは獄中にて看守たちの前で自殺を図った模様です」


 ☆☆☆

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