晴れ空は真っ赤に染まり新たな出会いを産む

 1週間後の日曜日のこと、俺は山中若頭とともにある取引先に来ていた。同盟を組んでいる組の連中とのヤクの取引だ。大金を叩いて相手は買い、俺と山中はそれを売っていた。ヤクの売買は基本的にタブーとされていたが若頭と組長との間で極秘にやられている任務だった。取引を終えた後、車に戻ると山中は笑いながら言った。


「……これが今の極道だ。頭を使わなきゃならねえ!」

「えぇ、若頭」

「やめろよ。俺らの仲だ。公式の場じゃねえんだ」

「いえ、昔の仲間と言えど今は組織の中の立場を重んじるべきです」

「……つまらねえ男になったな」


 山中から告げられる一言。重くはなかったが、下に見られているのがハッキリと分かった。まだ殺る時では無い。そう自分に言い聞かせた。そして山中に頼みとある山の頂上に来ていた。


「山中若頭に見て頂きたい光景です」

「綺麗だなあ」

「今日はやけに人が少ないですけどね」

「へー。いつも混んでんだ」

「はい」


 人が少ないのは貸切にしていたからだ。そして店員や店長なども不在にさせていた。殺しができやすいように。俺は持っていた拳銃にこっそりとサプレッサーを取り付けた。


 山中が俺の方を振り向いた。


「死ね。カスが」


 ――――――パシュッッ


 山中の胸を貫いた。静かに山中は倒れゆく。俺は山中の傷元を踏みつけながら、大声で笑った。これが俺の本来の力なんだ。証明してやったんだと笑い転げた。

 晴れ空だった視界は山中の返り血で真っ赤に染っていた。


 そして俺は山中の死体を車に詰め込んで、山の中に隠す。土を掘り起こし綺麗に隠すと車の中で着替えを済まし、次のターゲットの自宅前に来ていた。


 息を整え、返り血を浴びていた顔や目をスッキリと綺麗にさせ、服を着替え終えて車から降りるとちょうどいい具合にターゲットが現れた。


「お久しぶりです。道畑さん」

「……あ?」

「いえ、失礼いたしました。道畑若頭さん」

「……誰だお前」

「私は山中若頭の補佐であります、若林と申します」

「あぁ。あの異例な奴の」

「折り入ってお話がありまして、ぜひ車に乗っていただけたらと」

「……断ったら?」

「いえ、断らせません」


 俺はやや強引に道畑を車に連れ込む。車にロックをかけて動かすと道畑は警戒しながらも、冷静さを取り戻したのか静かに語り始めた。


「俺も落ちたもんだ。こんなガキひとりに連れ込まれるなんて。若い頃は猛獣だとか言われてたんだがな」

「道畑さん、まだ50手前でしょう」

「……ガキが」

「えへへ」


 俺は車を走らせて数時間後、山中を殺した場所とは違う、本当の山奥に来ていた。スマホも当然繋がらない、圏外は当たり前の場所。道畑を車から降ろし、俺は拳銃を道畑に向けた。


「道畑さん。死んでもらいます」

「……俺を殺したらテメェらの組がどうなるか分かってんだろうなぁ?」

「へへ。うちの若頭も殺したんで、うちの組は崩壊でしょう」

「なっ?!」

「覚悟の上ですよ。俺はこれで捕まるでしょう。でも俺は最後に自分が生きる価値があるのかどうか証明出来たんでいいんすよ」

「てめえ!!!」

「おせえ。死ねグズ」


 拳銃を撃ち放った。眉間を貫通し、その場に倒れ込む道畑。俺は静かに車からスコップを取りだし慣れた手つきで地面を掘り道畑を埋めた。ふたりを殺すことに成功し山から降りる。圏外から出たところで俺は組長に連絡をとった。


「始末しました」

「そうか。ご苦労」

「どうぞ警察に」

「へへ。分かってたのか」

「ええ」


 俺は自分がどれだけ価値があるのか分かればよかった。あとは警察に捕まって死刑になろうがなんだろうが良かった。


 トントン拍子に物事は進んでいき無事俺は牢獄に入ることとなった。

 数十年経った頃だろうか、俺はとある若い囚人がこの牢獄に来たことを知った。どうやら少年院にもいた経歴もある奴で、ただの盗人をやってたり恐喝や暴力程度で捕まった口なのだろうと思っていたが噂に聞くと、そいつは無期懲役の判定を食らったらしい。俺はそいつに興味が湧いたがどうにも接点がなかった。


 牢獄に囚われてから、俺は生きる価値もなくなりただの囚人、それもいい子ちゃんを演じている模範囚に成り下がっていたが、久々に若い頃の自分と重なったせいか悪い俺が現れていた。


 毎日仕事をこなし、若いそいつの噂を聞く度にどんなやつか気になっていた。トントン拍子で模範囚にまで成り上がったのだと聞いた時は俺の若い頃そっくりに感じた。


 どんなヤツなのか会ってみたかった。


 すると俺の願いが、もう一度俺に復活を、俺が俺であることを証明させてくれるチャンスが訪れた。知り合いの木工のヤツから聞いた話によるとそいつは脱獄を企んで居るのか、色々な人脈を作ろうとしていると。そして俺はこのタイミングだと思い、自分も脱獄をしようと考えていた。


「あんまり近寄るなよ。有刺鉄線切りてえらしいぞ 」

「へえ。まぁ面白いやつだろ」

「……変わってるな。お前も」

「ま、悪いようにはしねえさ」

「変な考えはよせよ」


 この腐りきった牢獄から逃げるために有刺鉄線を利用しようとするなど考えもつかなかった。俺は久々にワクワクしていた。こんな気持ちはワルをやっていた少年時代以来だった。

 そして奴は俺の元へ辿り着いた。


「君が炊事場の担当で模範囚の人?」

「若林だ。よろしく。お前さんは」

「……名前なんていいじゃん。所で包丁とか持ってる?」

「持ってるわけねえだろ。聞いたぜ、有刺鉄線切りてえんだって?」

「……えぇ」

「俺も同じこと考えてたぜ。相棒にならねえか?」

「……そう」


 俺は小僧を守るために、そして俺も怪しまれないためにより一層模範囚を演じた。

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