2人目 若林

証明

 若林昭弘という名前を貰い受け、俺はこの地に産まれ落ちた。母は優しく、父はもっと甘々で優しい雰囲気に包まれた家庭だった。俺はそんな甘々の家庭で育ったおかげか、俺は自分でもあほらしく思うほどに我儘に育っていた。身体も心もワガママ。


 小学校6年生の春だった。新しくクラスを変えることとなった俺は元のクラスメイトがほとんど居ないクラスに配属された。俺は教師に我儘を言い仲良しの居たクラスへの移動を頼んだ。しかし認められる訳もなく仕方なく1年をすごし卒業式を迎えた。だが卒業式の日俺は何故か色んなクラスメイトに囲まれた。


「お前ウザイ!」

「え?!」

「キモイんだよ〜!」


 俺はこの日卒業式に出ることが出来ず、泣きながら家に帰った。その日から俺は狂い始めた。中学校の時には他校の連中と大喧嘩。他校も他校の教師にも迷惑をかけ、親にも酷く怒られた。そして俺は初めての反抗期に突入した。今まで優しかった父と母はその日から態度を180度変えて厳しくなった。尚更反抗した。


 中学三年の春。俺は高校に入学することを選ばず、遊び歩いた。世間からのはぐれ者になった。夜中まで喧嘩、喧嘩ばかり。警察官には毎日のようにお世話になっていた。そんな日が続くと母もかなり心労がたたったのか、息を引き取った。


 父はそこから様変わりし、毎日のように酒を浴びるように飲み、俺への暴力も増えて行った。俺は反抗し、殴り返す。そんな喧嘩が、エスカレートした日俺はとんでもない事をやらかす。


 これが初めての俺の逮捕歴のひとつ。少年院入りとなった。


 エスカレートした中、父親が構えた包丁を奪い取り思い切り突き刺した。血だらけになる床に思わず俺は興奮していた。少年院に送られてからは穏便になるべく騒ぎを起こさないように、過ごした。


 少年院から出たのは、1年を過ぎた頃だった。俺は少年院にお辞儀をしてゆったりと歩いていると昔の連れが現れる。


「おい。話しがある」

「……あぁん?」

「……来い」


 俺は昔の連れが案内した場所はどす黒い看板を掲げている、とても小さな小屋のような場所だった。


「なんだここ」

「お前がお前の力を証明出来る場所だよ」


 すると6人ほどの大男たちが現れる。俺は拳を握った。すると大男たちは笑いながら言った。


「いいねえ!!」

「来いッ!」


 俺は大男たちと殴りあった。少年院からのブランクがあるせいか数十分も持たずとして、やられてしまったが仲間たちは喜び、俺を仲間として迎え入れてくれた。


 ここから俺は俺自身が正しいと証明するために動いた。父親が暴れるのが悪かったんだと。母が勝手に死んだのが悪いんだと、そう自分に言い聞かせた。


 ☆☆☆


 仲間たちと楽しく暮らして2年ほどが経った頃だった。俺たちは暴走族として名を馳せた。リーダーの山中、そしてサブリーダーである俺、そしてメンバーたちで様々な暴走族を潰してきた。


 だがとある日のことだった。


「ツラ貸せやああああ!」


 ひとりの包帯ぐるぐる巻きにされた男がキレ散らかしながら俺らに向かって叫ぶ。大人しくついて行くとそこには大勢のスーツを着た大人が居た。俺たちは戦うために拳を握ると1人の大人がこちらに近づき、山中に何かを渡す。


 俺が山中に近づくと、山中は来るなと叫んだ。


「や、山中?!」

「……若林。暴走族の看板は下げる」

「ふざけるな!!!」

「……俺は、いや俺たちはヤクザの傘下に入るぞ!!」

「え?」


 この日から俺は何故かヤクザの一員として、組織の輪の中に入ることとなった。ヤクザがどういう物なのかを理解していなかったが、初めて向かったビルで俺の認識が間違っていたことを証明された。


「オラァァァ!!」

「何喋りまくってサボっとんじゃワレェ!」

「ヒイイイイ。すんませえぇん!!」

「トイレ掃除したらんかい!」

「や、やりますううう」


 下っ端は相当なゴミ扱い。トイレ掃除を終えたと報告をすれば便器を舐めろと命令。舐めれなければ汚いということで、便器の水に沈められる。恐ろしい世界だった。


 そんな中、いち早く出世していったのは山中だった。元よりサブの俺など眼中にはなく、山中ひとり目当てのようだった。面白くなかった。

 どう考えても昔から喧嘩の強かった俺が、山中よりも上だった俺が少年院に入っている間に、山中が偉くなり俺が下っ端扱い。そんなもの間違っていた。俺が俺であることの証明のために、成り上がることを誓った。


 ☆☆☆


 数年後のこと、山中は異例の出世で若頭に、そして俺は山中の補佐となる若頭補佐となった。また納得がいかなかった。組からの命令を全てこなしているのも俺、組からの汚れ役も俺がやっていたのに山中が上を行く。つらかった。


 そしてこの日俺はタブーをやらかす。


「……若林ぃ?」

「へ、へい」

「……やらかしてくれたなぁ?」

「……す、すみません」

「……お前に特別命令を出してやる」

「え?」

「挽回のチャンスをやろう。山中がちょっと邪魔だ。山中を殺せ。そして俺らと敵対している組の若頭を殺せ」


 俺に命令を下したのは組長自身だった。どうやら組長も山中に自分の座を奪われるのではないかとヒヤヒヤしていたのだろう。


 俺が汚れ役をやるに決まっていること、そして山中を恨んでいることを知っての命令だった。唇を噛み締めながら俺は縦に首を振った。


「良い子だァ。お前にこれやるよ」

「へ……」


 渡されたのは拳銃一丁と銃弾30発だった。


「ありがたく」


 1週間後俺は決行した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る