逃走者

 夜になり、今まで観察してきたとおりに看守たちが静かになる頃合を確認し、私は鍵を開けるために針金で回す。鍵開けの知識など一切なかったが動かしていれば何とかなるだろうと、カタカタと動かしていると何かに引っかかる。思いっきりひねると鍵は上手く開く。カチャンッという音が鳴るが無視し、牢屋の外へ飛び出す。


 数分間見つからないように動き、仲間と合流する。互いに足音を立てないように近づきながら背中合わせにしてこれからの作戦を立てた。


 若林は独自に色んな人間に声をかけてちたらしく、ひとりこの監獄に50年居る年配の男が言うには出入口は固く閉ざされ、確実に開けるには難しいということだった。


「そんなの無理じゃん!!」

「……いや、かなり細いが秘密の扉があるらしい。爺さんが30年前に逃げるために掘っていたらしい。見つかっていなければそこから逃げれるってよ」

「爺さんなんで逃げてないんだ」

「逃げようとしたらしいが、何故か罪を犯した自分が逃げては行けないってビビったらしい」

「そう……」


 爺さんの言葉に心臓がぎゅっと握りつぶされた感覚があったが、後戻りが出来るわけないと、親が悪いんだと自分に言い聞かせて、その穴へ向かった。


「ここだ」


 かなり遠い場所にあったおかげで、牢屋から抜けて1時間程度経ってしまっていた。この時間帯になると看守は仮眠から起き上がり、巡回を始める時間だった。どうにか抜け出そうと私が先に穴へ入ると若林はにこやかな笑みで言った。


「手伝えるのはここまでだ」

「え?!」

「俺の身体じゃ、ここは通り抜けねえ。それより早くいけ。巡回のバカが来るぜ」

「わ、若林!」

「良いから。行け!」


 私はこぼれでそうになる涙を堪えながら穴を這いずって行った。何十分経ったか分からない。這いずって相当な時間が経った時小さな光が差す穴を見つける。顔にかからないようにゆっくりとこじ開けていくと外に繋がっていた。


「私は自由だ。これで、奴らを殺せる!!」


 私は必死に走って逃げた。どこか隠れ家を作らなければと必死に走り、一晩中駆け回った。とあるマンションの一室、私は住民が居ないことを確認し、持ってきていた針金で鍵をこじ開ける。中に入りテレビを観る。


「――――――本日、無期懲役となったひとりの囚人が脱獄し、逃げているとの情報です。警察は早急に逮捕し、市民の安全を守りますとのコメントをしており……」


 既にニュースになってしまっていた。私はなにか飯は無いかと家の中を漁り、部屋にあったカバンにタッパにいれてあった飯をひたすらに詰め込んで、着替えを済まし部屋に置いてあった現金3万をポケットにしまい、マンションを飛び出す。帽子を深く被りマスクをつけた状態でタクシーに乗り込んだ。向かうは実家。


 ☆☆☆


「……着きましたよ」

「……釣りいりません」

「え、でもお客さん」

「いいから」

「あ、ありがとうございます」


 タクシーから降りて向かった実家。明かりは着いておらず寝ているのが確認できた。私は恐る恐る玄関の扉を触ると、どうやら鍵を閉め忘れていたようだった。両親がいつも寝ている寝室に向かった。


「……寝てる」


 私は寝ているのを確認し、台所から包丁を2本取り出す。そして静かに寝ている母親の胸を突き刺す。


「アアアアッッッ!!!」


 痛みで跳ね上がる、母親。物音に気づいた父が起き上がる。


「だ、誰だ?!」

「パパ……」

「?!?!」

「あんたが私のことを作ったから悪いんだよ。えへへへ」

「や、やめろ!」


 1度刺してしまった包丁は人間の油分で使い物にならない事を以前読んだ小説で学んでいた。

 2本目の包丁を構えて父親に刃を向けると、泣きながら辞めろと泣く。


「……えへへへ」

「や、やめろおお!!」


 逃げる父に馬乗りになり、私は父の股間を突き刺した。だってこの股間が無ければ私がこの世界で苦しむことも、産まれることも無かったのだから。何度も何度も突き刺すと、そのうち父親は気を失った。


 2人を殺した満足を得ようと寝室に向かい母親の様子を見に行った時だった。母は既に居らず、這いずってどこかに行っていた。向かう先を絞った。大怪我の中向かえるのは外で誰かの助けを求めるか、警察を呼べるスマホを置いている場所か。


 私は両親がいつもスマホを置いていた部屋を確認しに行くとベッタリと血が着いている事を確認し部屋に入る。


「やっぱり1度刺したくらいじゃ心臓の位置なんて把握出来ないし、そりゃ生きてるよね。警察呼びなよ」

「あ、あんたのせいで私はどんだけ苦しんだのか……!」

「は?」

「わ、私はあなたが捕まってからどんだけ近所から腫れ物扱いされたか!!」

「ふふふふっ!!!」


 思わず笑いが漏れてしまった。私のせいで母が不幸に?

 そんなわけない。私を産んだ母が悪いのだから。私を作った父が悪いのだから。


 私は母の首を思い切り絞めた。そして数分後ちゃんと死んだことを確認して、私は冷蔵庫の中にあったビールを一口飲んで、メモ帳にメモを残し母と父の死体を引きずりながら、ベッドに乗せる。


「ほら。家族の完成!」


 私は自分の心臓の位置を確認して、母がいつも使っていた刺身包丁で突き刺す。これで全てが終わった。


 ☆☆☆


「――――――無期懲役となっていた犯人は、実家がある〇〇市に戻っており、父と母を殺害後、自殺をした模様です。警察の話によりますと、メモ紙が残されており内容は【私は私だっただけ】と意味ありげなメッセージを残したようです」


 ☆☆☆


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