好きは突然で

   







 クリスマスまでまだ一カ月もあるっていうのに、あたしは何をプレゼントしようかとずっと悩んでいた。ファッション系がいいのか、文房具が妥当か。それとも食べ物が喜んでくれるのか、なんて。

 焦れば焦るほど、どんなプレゼントが良いのかドツボというか沼に嵌るというか。わけがわからなくなっていた。





「―――で、結局手編みのマフラーとは…」

「ベタだけど咲寿にしてみたら逆に斬新かもね。こういう手作り系したことなさそだし」


 散々悩んだ挙句、クラスメイトが言う通りあたしはベッタベタの手編みのマフラーを選んだ。これからの季節には丁度良いだろうし。きっと貰っても困らないだろうと思ったからだ。


「まあ好きな彼がずっと身につけてくれる~。なんて考えたらヤバいしね」

「ち、違うってオッドんはそういうんじゃないから!」

「またまた~、もうみんな夏休み明けから知ってる事実だから」


 で、なんでクラスメイトの家へとお邪魔したのかというと。あたしには手芸の才能がないため、そのご教授願うために足を運んだってわけだった。

 すらすらと編んでいくクラスメイトの傍らで、あたしはしどろもどろになりながら毛糸を編んでいた。彼のためにと、必死になって編んでいた。


「……けどさ、咲寿が変わったのはホントだよ。オッドくんのおかげで凄い変わった」


 唐突に、そう言い出したクラスメイト。あたしは思わず手を止めた。


「そんな変わった?」

「やっぱ自覚なかったかー」

「咲寿ってさ、頼れるガキ大将キャラって感じだけど誰かを頼るなんてあんましなかったじゃん?」


 ガキ大将って。その単語にあたしはこれでもかってほど不機嫌な顔をした。

 けど誰かを頼ろうとしなかったって自覚はあった。ついムキになるっていうか、負けず嫌い根性のせいもあるけど。でももし頼って嫌な顔されたらこっちも嫌な気分になるじゃん。だったらあたしが一歩引いとけばいいかって思っていた。それがみんな丸く収まる方法だって思っていた。


「たまに男子をこき使うことはあったけど。でもオッドくんにはあんな頼っちゃっててさ。ビックリしたもんだよ」

「そうそう。けどそこから徐々にうちらにもこうして頼るようになってくれてさ。めちゃくちゃ嬉しかったんだんだよ」


 じっとりと見つめる二人の視線。あたしは編んでいた手を止めて二人のその目から背けた。

 

「ご、ごめん…これからは二人のことももっと頼るから……だって、友達。だもんね…!」


 力いっぱいで。ようやく言えた『友達』って言葉。

 すると二人はぽかんとした顔をして、それから「当たり前でしょ」って二人揃って破顔した。


「逆にまさか友達じゃないとか思ってた? そーいやうちら『友達』って言って貰ったことなかったもんなー。減るもんでもないし言ってくれて良いのに」

「じゃあ今日を『友達記念』ってことで。私たちへのプレゼントもよろしく~!」 

「いやいや、マフラー三つは無理無理!」


 どうやら相当真っ赤な顔をしていたようで。そんなあたしを見て二人はまた更に笑っていた。




 結局、『友達』ってなんで断言出来てなかったんだろうって思うくらい、あっさりとあたしは二人を『友達』と呼べた。

 そりゃそうだ。友達って呼んでなかっただけで、とっくにあたしたちは友達だったんだから。

 やっぱり、あたしは何にも変わってなんかいなくって。自分関係のことになると、それを認めるのが怖くてついつい逃げてしまう。

 ―――だから、オッドんへのこの気持ちも。ホントは気付いていたけども、認めたくなくて言葉に出せないでいた。







「とりあえず今回のは練習用ってことで。本番までにカッコイイマフラー編んでやろうよ」

「でもって! ちゃんとプレゼント渡したときについでで告ってよね~」

「だ、だから…そういうんじゃないんだって!」


 あたしが顔を紅くすればするほどに、二人はによによと小馬鹿にしたような嬉しそうな笑いをしてきて。それが堪らなく悔しくて。でもどこか楽しくもあった。友達の前でこんなにも清々しいくらいの恥ずかしさなんて、初めてかもしれなかった。


「とにかく、がんばってこ!」

「ついでにうちらも編み編みするし」

「ありがとね、真琴。千和」

 

 あたしの言葉に、二人は満面の笑顔で頷いてくれた。








 ―――前言撤回。

 あたしは友達の言うように、変わったところもあったようで。

 心を込めてマフラーを編めば編むほどに。オッドんの顔を浮かべれば浮かべるほどに。あたしはこの燃え上がる感情にウソを付けなくなっていっていた。




 でもオッドんとは友達でいたかった。ずっと友達だって約束したわけだし。

 それに、馬鹿みたいに真面目で不愛想で無口だし、いつもムスっとしていてさ。つまんない男なんだよ。オッドんは。

 ―――でもホントは凄く優しくて口数少ない分、行動で示してくれる。そう言う時って意外にも強引で。偶に掛けてくれる優しい言葉がストレート過ぎてこっちが恥ずかしいくらいなんだけど、それが堪らなく嬉しくて。

 微笑んでくれると凄くドキドキして。顔が熱くなって。

 彼の隣が安心していた。

 彼と一緒だと楽しかった。

 彼とずっといたいと思った。

 約束だよって、繋いだ小指の感触も未だに忘れられなかった。

 オッドんの笑顔も、声も、温もりも忘れたくなかった。

 気付いたらあたし、ずっと…オッドのことばかり考えていた。




 それでようやく認めてしまった。好きになっちゃったんだって。

 初恋だった。それを認めちゃったら余計に体中が熱くなって、心臓が全力疾走した後みたいに息苦しくなっていった。

 あたしは、オッドが好きになっていた。

 恋をしていた。








 その頃からか、あたしはオッドんといつも通りの会話なんて出来なくなっていた。

 好きって自覚しちゃったせいか、いつもと違う感覚になっちゃって。そのせいで彼から逃げ隠れした日もあった。

 あたしはが来るまで、ほとんどオッドんとまともに話すことが出来なかった。

 ―――今にして思えば、この時に何で話しておかなかったんだろう。恥ずかしくても、何でも良いから話しておけば良かったって、今は酷いくらい後悔している。







   

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