出会いは偶然で
高校2年の春。
校門の向こうでは去年も見た光景が広がっている。校庭の桜の木とか、クラス替えに湧く同級生たちとか、駆け寄って来る友達とか。どこの学校にでもある日常の風景、平穏な新学期がそこにはあった。
「
「うん、ホントだね。けどまあ違うクラスなったとしてもちゃんと会いに行くし」
「マジでうれしいこと言ってくれんじゃん!」
そう言ってあたしの頭をぐしぐしと撫でてくるクラスメイト。あたしはその行動が不満で「子供扱いはナーシ!」って言ってクラスメイトの頬をムニムニと揉んでお返しする。
最近ついに伸びなくなってしまった身長のせいであたしは周囲の女子とは頭一個分も低くって、それがコンプレックスで。だから最近はちょっとでも身長を稼いでやろうと思って、髪をお団子ヘアで結い上げていた。
そんなおかげか、今ではそれがあたしのトレードマークみたいとなっていた。
「こらこら、静かにしろお前ら」
見慣れた教師が教室に入って来るのが見えて、それでもクラスのざわつきは収まらない。
何故なら先生の隣には見たことのない男性生徒が立っていたからだ。
「よろこべみんな。このクラスにイケてる男子の転校生が来たぞー」
決して大きくはない片田舎のこんな町に。しかも先生の言葉通り、外国人ハーフでイケメンの転校生だった。女子が騒ぐのも、男子がどよめくのも無理はない。
「あれって同い年かよ?」
「つかどう見ても俺らより年上っしょ」
「ハーフのイケメンヤバくない?」
確かにプラチナブロンドの髪にすっきりした目鼻立ち。しかも周りの男子よりも頭一つ以上飛び出るほどの長身で、鍛えているのかってくらい制服越しでもわかるような体格。雰囲気も年相応以上って感じで、何処か神秘的さもあって。もう生徒っていうよりは何処かの国から来た王子様。そんなイケメンだった。
けれど、直感的にあたしには関係のない相手だなって思った。なんていうか、住む世界っていうか、グループが違うなって感じ。あたしみたいな騒がしいだけの子供のグループとは別の、大人な美男美女たちのグループ。
だから絶対に彼と親しくなることはないだろうな、って思っていた。
「静かにしろー。ではさっきも言った通り、挨拶と一言よろしく」
そう言って担任に促されると転校生は淡々と自己紹介をする。
「……オッド・リンデマンだ。以上」
それだけ言うと彼はそれ以上の言葉はなく。そのまま勝手に空いていた一番奥の席―――あたしの隣の席へと座った。
「あー…まあ、こんな感じでシャイボーイみたいだから。みんな優しく接してやってくれ」
「センセー、なんか
「は? マジか? じゃあオバサンなりたくないんで、こういうときなんて言うか先生に教えてくれ」
騒がしいくらいに賑わうクラス。なのに転校生ときたら笑うどころか眉すら動かさないでいる。
最初は緊張でもしてんのかな、なんて誰もが思っていた。もしかするとクールな性格なのかもとも思った。けれどそれは違ったようだった。
「ねえ、オッドくんて身長何センチあるの?」
「テレビとか動画とか何か見てたりする?」
昼休みの時間になると教室の内外は生徒たちによってちょっとした賑わいを見せていた。『イケメン転校生』なんて聞けば誰もが一目は見てみたいなんて、思うのかもだけど。
そんな中、クラスの女子たちが先陣切って転校生を取り囲んで色々質問責めにしていた。質問責めってのもあんまりウザいかもしれないけれど。
一応は好奇じゃなくて好意を持って話しかけてくれている女子たちに対して、その転校生の返答は。
「その質問に対して答える義務はない」
って、まるで機械のような台詞を言った。いや、昨今じゃあAIの方がもっと親切に返してくれるって。
「よかったら昼飯一緒に食うか?」
「部活動とかやらねえの?」
それじゃあ女子が苦手なのかと思いきや。
話しかけたクラスの男子に対しても、転校生は何にも答えない。断りの言葉さえ言おうともしなかった。
それどころか眉間に皺を寄せたような顔までしちゃっててさ。そんなムスッとした顔のせいでイケメンも台無しだった。クールとか冷静って言うよりは無愛想って言葉の方がピッタリな感じだ。
日本語がわからないってわけでもないみたいなのに、 必要以上なことはなんにも喋らないって決めている感じで。寡黙なのか人嫌いなのか…そんな雰囲気を出していた。
で、そんな態度を決め込んでいたせいでその転校生はあっという間にクラスから孤立していった。
「なんか怖いよね、威圧的っていうか…」
「無言で見下ろしてくる感じがマジヤバいって」
「イケメンとはいえ、流石にあの感じはね…」
まあ、こんな風に陰口を言われるようになってしまっても半分自業自得みたいなもんでしょ。と、あたしは思う程度だった。
だからあたしは彼の態度に良いも悪いも特に気にしてはいなかった。
それなのに―――。
始業式から一月ほど経ったある日の放課後。
「オッド…転校生のことなんだがな。クラスに馴染めないでいるみたいなんだ。だから彼のこと面倒みてやってくれないか?」
あたしは担任に呼び出されるなり、こう言われた。
どうやら担任としては転校生の動向が心配だったみたいで。じゃあ誰か友達を作らせようって考えに至ったらしく、それであたしに白羽の矢が立ったようだった。
「はあ? なんであたしが? 普通男子じゃないの?」
「花濱、お前彼とは隣の席だろ? つまり隣の席のよしみってやつだ」
「そんなん適当じゃん」
なんて文句を言っても無理矢理面倒な課題を押し付けてきた担任は「じゃあ頼んだぞ」とか言って、そそくさと逃げて行ってしまった。流石に呆れてため息も出ない。
けれども、実はちょっと想像していた展開でもあった。
あたし自身が元々人前に出るのが好きな方っていうのもあった。他人が迷っているのを見ていると代わりにやっちゃったり、間違っていることを言う奴に正面きって反論しちゃったり。仕切りたがりっていうわけじゃないんだけども。
もめ事があったら真っ先に「ちょっと男子ー!」って言うポジション。それがあたしだった。
そんなあたしの性格が周囲にしたら頼もしいみたいで。気付いたら人に頼られて押し付けられることが多くなっていた。学級委員長でもないのにクラスのまとめ役の一人みたいになっていた。
頼られるのも嫌いな方じゃないけれど。でも流石に無愛想な転校生の面倒を見てやれって―――それはあたしの役目じゃない気がした。てかそれって多分、学級委員長の役目じゃん。
「ねえ…先生には頼むって言われたけど…どうすんの?」
「だってさ、ちょっと…怖いじゃん。近寄るなって雰囲気あるし。そもそも女子に頼むのって可笑しいし。男子に頼めよって」
「…どうするの、咲寿?」
一緒に担任の無理難題を聞いていたクラスメイトたちが不安そうな顔であたしの前に集まって、そんなことを話す。
確かにどうしようとは思ったし可笑しいとも思った。
だけど。そのときのあたしはどうにも彼女たちの台詞の方が無性に気にくわなかった。
「てかあたしは別に怖くないけどね。それにアイツも何も悪いことしてないわけだし、だったらあたしは全然普通に話せるし面倒だってみてあげられるっての」
今にして思えばただただムキになっただけ。意地っ張りな台詞をはっきり吐いたあたしは、クラスメイトたちをそのままにしてその日はさっさと帰ってしまった。
次の日の休み時間。あたしは厄介事をさっさと片付けるべく、早速行動に出た。
けれど別に担任の言う通り転校生と友達になろうなんてつもりはさらさらなくって。
つまりはあたしが
「―――あのさ、オッドん。次の時間での教材がさ…」
第一声にそう呼ばれた本人は、当然ムスッとして眉間に皺を作った。黙ってあたしの方を見たけど、あたしは気にしなかった。
あたしの後ろでは女子たちが気まずそうな顔をしてて、他の生徒も同じ顔をしていた。けど、あたしはそんな彼へきっぱりと言ってやった。
「イヤな顔しないでよ、あだ名じゃんあ・だ・名。フレンドリーな証拠でしょ? それにオッドんってゼッ〇ンみたいで可愛げあるじゃん」
「ウルトラ〇ンの怪獣と同格に可愛い言われても…あんま嬉しくないんじゃ…」
って、背後の女子たちは囁いていたけれど。あたしにとってはこれが最高のあだ名だって思っていた。てか、昨晩寝ずにまで考えたわけだし。
そんなあだ名について譲らない態度でいたあたしを見て、流石の転校生も呆れたのか、諦めたのか。
最後は深いため息を吐いていた。 それは『仕方ないが受け入れてやる』っていう返答のようにも見えた。
イケメンっぽいけど 無口で不愛想。ついでに言うならあたしよりも頭二つ分も大きくてムカつく。
そんな第一印象から始まった転校生との関わり。それがあたしと
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