君が勇者のスターチス

緋島礼桜

始まりは走馬灯で

 







 あたしはこれから死ぬ。たった今死のうとしている。

 けれどこれは、生きていることに絶望したからとか不運な事故が起こるとか。そんなことじゃない。

 あたしが望んで―――大切な友達のために、生まれて始めて好きになった男性ひとのために、選んだ結果だ。


「運命? ファンタジー? そんなもん知るか! JKの恋愛モードなめんなぁぁッ!!」


 そうしてあたしは呪いを叫びながら、手に持っていた剣を自分の胸に目掛けて突き刺した。

 意外にも驚いたのは刺すってことにはもっと力が必要だと思っていたのに、案外するっと簡単に心臓を貫けちゃったことで。

 あれ? あたしってば結構怪力? 

 なんて思ったけど、多分違う。

 あたしの叫びに剣が呼応して勝手に動いたって感じだった―――おそらく、これが『呪い』っていう力なんだって思った。

 そしてやっぱり当然だったのが、間もなくやってきた壮絶に苦しい痛みだった。


「いッ…いだッ……ぅぐッ……!!」


 生々しい描写は割愛するとしても。激しく酷い痛みで思わず汗も涙も沢山溢れ出ていた。

 カッコつけて潔く自分刺しちゃったけども、本当は『死ぬ』ってこと自体怖くて怖くて堪らない。

 あたしを強いなんて言った人もいたけれど、本当はなんにも強くなんかない。意地っ張りなだけで泣き虫だし、なんの取り柄だってない。血だって見るのも嫌だし注射も直視なんて出来やしない。

 やりたいことだってまだまだあった。来週発売の雑誌、続き読みたかったなとか。推しの生配信、見たかったなとか。くだらないことかもだけど、そんな他愛のない心残りなら沢山あった。

 ―――けれども。それでもあたしはそんないつもの生活じゃなくて、友達を、愛を選んだ。

 選んじゃったからにはもう、後悔はしたくない。

 そうこうと考えているうちにあたしの意識はなくなっていき、そうしてあたしは死んだ。

 17歳という短い生涯を終えた。

 







 ———あたしの視界が真っ暗闇に呑まれていく最中。

 遠くで淡く輝く光景が目に入った。まるでスクリーンのような輝きの向こう側には、あたしがこれまで歩んできた人生が映画のように流れていく。


(そうか、これが走馬灯ってやつか…)


 なんてことを考えていると、その走馬灯はここ最近の光景を映し出し始めた。

 それは、あたしとが初めて出会った頃の記憶だった。






 

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