第12話 恋愛? 時には勘の鋭さが重要である。

 衝撃の事実を知ってしまった今、幼馴染とどういう顔で会えば良いのか正直分からない恋梨武太17歳。


 え? 笑えば良いと思うよって?


 馬鹿言っちゃいけない。笑える要素なんて一つもないっての。


 俺は彼女いない歴17年の極普通の男子高校生だ。今日も今日とて勉学に励み、灰色の青春を謳歌する……筈だった。



「おい恋梨! お前はいつの間に彼女つくってやがった!」



 朝から教室に入るなり訳の分からん問い詰め方をしてくるモブ野郎の錬蔵君。


 こいつは一体何を言ってんだ? 朝から激おこぷんぷん丸とは忙しい奴め。



「何で不思議そうな顔してんだよ?! 昨日ギャルと腕組んで歩いていただろが!」



 あっ。


 すっかり忘れていたが、昨日コイツにミイちゃんと腕を組んでいるところを見られてんだった。


 取り敢えずギャルを装ってみよう。こいつはアホだから勢いで誤魔化せるだろ。



「あーね。気のせいじゃね? 偶々だし。それよりいつも宿題忘れてんだから持って来たか確認しろし。」


「偶々なわけあるかよ。『彼女のミイちゃんでぇす』って超可愛いギャルが言ってんの聞いたんだからな! しかもギャル口調とか嫌味かよ!」



 どうやら勢いでは誤魔化しきれないようだ。俺同様モブの癖に。


 零子ちゃんや右京さんにも言い訳してあるし、取り敢えずのところは親戚って事で通すしかないな。


 それにしても、こいつがミイちゃんの口調を真似ると驚く程キモイな。


 マジで驚きのキモさだ。



「あの娘は親戚でさ。ちょっと田舎から出てきてたから校内を案内してただけなんだよ。」


「嘘つくなよ。あの娘からは超絶なラブ臭が漂ってたぞ。俺のラブ嗅覚を舐めるな!」



 こいつ変なとこが鋭いんだよなぁ。にしても、なんだよラブ嗅覚って。


 俺同様モブのお前がそんなキモいもの搭載してんじゃねぇよ。



「なぁ、本当は親戚とかじゃないんだろ? 俺には分かる。あれは最近運命の人を見つけた乙女の表情だった。」



 錬蔵に彼女が出来ない理由が分かった気がする。


 モブとかそういう問題以前に、キモ過ぎるからだ。



「違うって。」



 今日こいつの相手をするのはやめておこう。ボロが出たら敵わない。


 それに、どうせ錬蔵が何か言っても皆信じないだろうし……キモ過ぎて。



「恋梨に彼女が出来たのか!? やったな! お前は良い奴だからそのうち出来ると思ってたんだよ。」



 我がクラスの主人公、聖光院雷人のお出ましだ。


 錬蔵が余計な事ばかり言うから早速情報が漏れたじゃないか。しかも偽情報が。



「違うって。親戚の子を校内案内してあげてたら偶然錬蔵に見られてな。否定してんのに彼女だろって言い続けるんだよ。」


「そうなのか。」



 俺が困った風に言い訳すると、雷人は妙に物分り良く納得してくれた。こういう素直さもこの主人公様の良い所である。



「いーや、絶対違うね。もし彼女じゃないってんなら俺に紹介してくれよ。」



 何て厚かましい。


 彼女じゃなかったとしても、あんな可愛いギャルをわざわざ紹介してやる男なんている筈ないだろうに。


 普通の男だったら、ミイちゃん程可愛ければ人に紹介なんてせずに自分が狙う。


 俺の場合は別の事情があって紹介出来ないわけだが。



「お前みたいなキモイ奴に親戚を紹介したくない。」


「な、なんだと!? 俺のどこがキモいってんだ!」


「ラブ嗅覚を搭載していて、ラブ臭が漂っているとか言っちゃうところ。」


「すまない錬蔵。それは俺もキモいと思う。」



 流石に人格者の雷人でもキモ過ぎる人間は庇えないようだ。もしかしたら庇うつもりも無いのかもしれんが。



「ふん! もしお前が彼女欲しくてのたうち回ったとしても、俺の妹を紹介してやらんからな!」



 捨て台詞を吐いて自分の席に戻っていく錬蔵。


 申し訳ないが、たとえお前の妹が可愛かろうとも、お前の妹である時点で紹介してもらいたいとは微塵も思わない。



「妹さん、苦労してるだろうな。」


「あぁ、誰もあんな兄など欲しくないから、きっと彼氏が出来ないに違いない。」



 あんなキモい兄がいるだなんて知ってしまったら男は避けるだろう。



「そう言えば雷人は錬蔵の妹を見た事があるのか?」


「あるぞ。かなりの美少女だ。」



 驚く程のマイナスを抱えているが、それなら彼氏が出来る可能性はあるな。


 かなりの美少女なら多少の借金があっても平気だろ。錬蔵を借金と表現するのも気は咎めるが。



「しかしな、恋梨の言う通り兄のせいで誰に告白しても受け入れてもらえないそうだ。」


「……。」



 なんて不憫なのだろうか。


 まぁ、最悪兄は死んだ事にでもしておけば妹さんはどうにかなりそうではある。



















「ねぇ恋梨君。」


「どうしたの?」


「どうやら恋梨君にはミイちゃんという彼女がいるらしいね?」


「……。」


「私も知ってる娘なんだけど、とっても良い娘だから付き合う事をオススメするよ?」



 今は放課後、既に恒例となった生徒指導室での担任教師とのやり取りの一幕である。



「知ってる娘っていうか……あなた、本人ですよね?」


「そうとも言うね。」


「そうとしか言わねぇよ!」



 困った事に、俺には超可愛い派手目のギャル彼女がいるという噂が流れていた。


 昨日、ミイちゃんと腕を組んでいるところをクラスメイトのモブ野郎に見られ、それを言いふらされてしまったのだ。ちなみにモブ野郎とは錬蔵の事だ。



「仕方ないね。責任取って付き合うしかないよ。」


「んな責任の発生の仕方があるかっ!」


「まぁまぁ落ち着いて。そんなに興奮しても事態は解決しないよ?」


「俺は一応あなたの心配をしているのですが?」



 これは普通にヤバイだろ。


 恋梨の彼女は誰なんだ? 調べてみようぜ。ん? どのクラスにもいないぞ。どうなってんだ?


 となった場合、困るのである。


 流石にミイちゃん=カワイコちゃん先生という式が成り立つ事に気付く奴はいないだろうが、万が一バレたら問題なのだ。



「私の心配してくれるだなんて……。これはもう付き合うしかないわね。」


「ミイちゃん危機感足りな過ぎでしょ。」


「え? あだ名で呼んでくれるの? 結婚! 結婚するしかない!」



 あだ名で呼べって自分で言ってたでしょうが。



「いや待て。先ずは目先の問題からとりかかろうじゃないか。」


「何て頼り甲斐のある人なの……。」



 目をキラキラさせて俺に視線を向ける担任の教師。


 俺は手を額に当て、本音を呟いた。



「先生のが大人でしょ。むしろ頼り甲斐は先生こそ持ってて欲しいんだけど?」


「ミイちゃんって呼んで。」


「あ、はい。」



 ダメな大人って、きっとこんな人なんだろうなぁ……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る