第11話 恋愛? お互いの価値観は大事だよねって話。
母さんが買い物から帰って来ると同時に、ミイちゃんは不自然な程あっさりと帰って行った。
結局何がしたかったんだ?
疑問は尽きない。しかし俺にはやらなければならない事がある。
それは……。
「という事でさ。実は親戚だったんだよね。」
『武太君にあんな可愛い親戚がいたなんて知らなかったよ。腕まで組んじゃってねぇ。』
零子ちゃんへの言い訳、というか誤解を解く事である。
一応納得はしてもらえたようだが声に若干トゲがあるのは気のせいか?
放課後の下駄箱での一件についてしっかりと誤解を解いておかねば、万が一言いふらされでもした場合は地獄の学校生活が始まるかもしれない。
脳みそチ〇コ、略して脳チンのそしりを免れないのである。
「いやいや、親戚ってさ……そういうノリ? みたいなのってあるじゃん?」
正直無理があるとは自分でも思っている。いくら親戚でも腕組みながら彼女です、と言う奴なんていないだろう。
でも、そういう事にしておかないと色々とマズいのだ。
幼馴染だろ。頼むから俺の雑な言い訳に納得しろ。
『ふーん。まぁ、確かに親戚ってそういう感じあるよね。』
「はい?」
やべっ。思わず声に出てしまった。そして何故か納得されてしまった。納得しろとは思ったが、まさかこれ程あっさりいくとは思いもしない。
零子ちゃんってもしかして、ちょっと変わってる?
『私のとこでもそうだもん。従兄弟がね、一緒に歩いていると彼氏ですって言って回るから結構大変なのよ。』
「そ、そうなんだぁ。」
零子ちゃん。それは多分ガチなやつだと思うよ?
俺の場合は親戚じゃないから問題ないけど、従兄弟だと法的には問題無くても世間体とか色々あるよ?
『ほんとに困っちゃうよねぇ。従兄弟なんて親戚だしさ? 手繋いだりベタベタするくらいが関の山で、付き合うなんて出来ないって話なんだけど。』
うん。この人、異性との距離感ぶっ壊れてるわ。
主に親戚の従兄弟に対して。
普通従兄弟相手にベタベタはしない。当然手も繋がない。
大変に申し訳ないのだけれど、俺の幼馴染はビッチ説が割と確度の高い情報として脳内で処理されてしまいそうである。
「そっかぁ。ところでさ、その従兄弟は近所に住んでるの?」
『そうそう。近いからって毎日来るんだよね。』
毎日?
やっぱりガチの奴だ。
「なるほど、大変だね。」
『うん。武太君も大変みたいだし、お互い頑張ろうね。』
「あ、あぁ。」
何とも微妙な気持ちのまま、通話を終えた。
「しかし、幼馴染やってきたけど、そんな従兄弟がいるなんて知らなかった。」
いくら幼馴染とは言え、流石に親戚関係までは把握してないし、最近こっちに引っ越してきたとかかもしれないな。
まぁそれは置いといて、今の俺は女の子に興味はないが、それでも分かる事がある。
そんなベタベタする従兄弟がいる女の子とまともに付き合いたいと思う男は恐らくいないだろう。少なくとも俺だったら嫌だ。
下手すりゃ肉体関係とかありそうじゃん。
零子ちゃん、彼氏居た時とかマジでどうしてたんだろう?
幼馴染との通話を終えた俺は確信してしまった。
やはり、俺には恋愛なんて縁がないのだ、と……。
告白みたいな事をしてきた幼馴染には、第三者目線で見た場合に怪しい関係の従兄弟が存在している。
これは明らかに地雷物件だ。
以前の俺でも、恋愛に興味を無くしてしまう前の俺だとしても……断る事が容易に想像できてしまった。
「まぁ、別に俺が浮気されたとかじゃないし、良いんだけどね。」
ミイちゃんはこの事を知っているのだろうか?
知ってそうだなぁ。
知ってて俺には言わなかった可能性が高い。武士の情け? みたいな。
ピコンとLIMEの通知が鳴る。
「何だ?」
差出人はミイちゃんだ。
ここ最近日課になっているこのやり取り、面倒と思いつつも若干楽しいと思っている自分がいる。
「どれどれ……っ!?」
LIMEを開き、文字に目を通した瞬間衝撃が走った。
『零子さんとの電話終わった? 従兄弟の話とか聞いちゃった頃かな?』
何故分かる。
この人、まさか俺の部屋に何か仕掛けていったんじゃないだろうな?
俺が恐れ慄いていると、LIMEが鳴り始める。
「もしもし?」
『もしもーし。』
「どうして従兄弟の件知ってるの? というか、何でその話をしたって分かったの?」
『愛する人の全てを知っておきたいじゃん? 人間関係も含めてね。』
何の答えにもなってない返事をありがとう。
あと、それって間違いなくストーカーの思考だよね?
『これで分かったでしょ? 恋梨君は私と付き合う以外に道はないよ。今のところ私が把握してる限りだと、貴方の周りの女子は大体地雷物件だから。』
そっかぁ……地雷物件かぁ……。
その地雷物件にはミイちゃんも含まれている気がするのは俺の気のせいだろうか?
「その件に関してはもう少し保留でお願いします。」
『オッケー。恋梨君はどうせ私と付き合う事になるのは分かってるから、今はまだ待っててあげる。』
なんとなく、既にこの人からは逃げられないような気がしている。
しかし素直にうんと頷くのもなんだか悔しい。主に男のプライド的な意味で。
「で、どうして従兄弟の件を知っているかの説明は?」
『単純な話だよワトソン君。』
誰がワトソン君だ。
『幼馴染であり、恐らくむっくんと付き合う為の最大の障壁になるであろう零子さんを偵察したのだよ。そしたらあら不思議。毎日零子さんの自宅に出入りする男がいるじゃあないですか!』
「それで?」
『零子さんと従兄弟が腕組んで歩いている時に、偶然を装って直接聞いてみた。』
ド直球だな。
まぁ、確かに単純な話だった。
偵察する事自体は意味不明だが。
『従兄弟は付き合ってますって言ってたね。零子さんは違うって否定してたけど。ちなみにキスは済ませているそうよ? 従兄弟が強引に迫ったみたいだけど。』
「マジか……。普通は嫌がるもんじゃないの?」
強引に迫られたとは言え、今でも毎日会っているというのはオカシイと思うのは俺だけだろうか?
『零子さんが言うには従兄弟だからノーカンだって。』
そのうち肉体関係までノーカンだなどと言い出すんじゃないか?
零子ちゃん。君とはやっぱりお付き合い出来ないかな。
例え天地がひっくり返ろうとも。
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