第13話 恋愛? 綺麗事だけじゃないよね。

 ミイちゃんは残っている仕事があるらしく、放課後デートはしない事になった。


 毎日放課後デートなんてしていたら本当にバレる可能性があるのでそれ自体は大歓迎ではあるのだが……。



「武太君今日は静かだね。どうかした?」


「……どうもしないよ。」



 気まずいなぁ。


 零子ちゃんと一緒に帰宅しているのだが、昨日色々と余計な事を聞いてしまったのもあるからして、何と言って告白を断ろうか絶賛悩み中なのだ。



「こうして並んで帰るのって懐かしいよね。昔は良く一緒に登下校してたのになぁ。」


「そうだね。」



 本当に懐かしい。出来れば昔のように気まずい思いなんてせず、一緒に並んで歩きたかったよ。



「彼氏とかつくらなきゃ良かった。」


「仕方ないんじゃない? 零子ちゃんはモテるから。」


「ちゃんとした人と付き合えなかったらモテても意味ないじゃん。」



 ちゃんとした人って何だよ。零子ちゃんの元カレはちゃんとしてない人だったのか?


 そう言えばどんな相手だったのかはあまり知らないな。その辺を少し聞いてみよう。



「へぇー。ちゃんとしてない人だったの?」


「そうそう。元カレには何回も浮気されてね……。」



 あ……今ふと思ったんだけど、それっていちいち俺と比較するから当てつけに浮気してたんじゃ?



「浮気するなって言ったら『お前も幼馴染と浮気してんじゃん』って言ったんだよ。酷くない? 浮気した事なんて一度もないのにさ。」



 わーお。


 元カレの中では俺が零子ちゃんの浮気相手という図式が成立してたんだろうな。


 正直気持ちは分からなくはない。


 いちいち別の男を引き合いに出す女がいたら、こいつ浮気してんじゃね? と思ってしまう気がする。勿論頻度にもよるが。



「浮気する奴ってホント最低だよね。全部こっちが悪いみたいに言うしさ。」



 浮気する奴は最低だけど、別の男を引き合いに出す零子ちゃんもなかなかのものだと思うよ?


 わざわざ言わんけども。



「従兄弟の事だって親戚だって言ってんのに『今度は別の奴と浮気かよ』って言ってきたんだから!」



 うわぁ……。



「キスだって強引に迫られたって言ってるのに全然信じてくれないのよ。」


「何で相手はキスの事を知ってるの? 言わなきゃ良かったんじゃ?」


「偶々キスシーンを見られて……。」



 すまん。それは第三者の俺でも信じ難い。


 零子ちゃん、君はちょっと誠実さというものを勉強した方が良いね。先ずは従兄弟と距離を取るところから始めないと、他の彼氏が出来てもまた浮気されるよ?



「幼馴染の貞操観がバグっている件について。」


「え? なんて?」


「なんでもない。」


「そう?」



 あぶね。


 咄嗟に本音が出てしまった。


 しかし、何がなんでも絶対にこの娘とは付き合いたくない。


 話を聞く限りだと、零子ちゃんにもかなりの比重で非があるように感じる。元カレが100%悪いとは正直思えない。


 浮気をしたのは元カレかもしれんが、異性との付き合いにおいて重要な信頼関係を先にぶち壊したのは零子ちゃんだ。



「武太君は恋愛に興味ないとか言っちゃうしなぁ。あっ……。」


「どうかした?」


「恋愛に興味はなくてもお付き合いだけでもしてみない? 色々と楽しい事しようよ。もしかしたら興味が戻るかもしれないし。」



 楽しい事って何だよ。


 その台詞、まんまおっさんじゃん。



「結構です。」


「幼馴染なんだから照れる事ないよ?」


「大丈夫。間に合ってるから。」


「私、武太君の事好きだし、こんなに本音で語り合えるんだから相性も良いと思うし、お試しで良いから付き合ってみない?」


「無理。」



 本音で語り過ぎなんだよ。


 異性関係の話をもう少しオブラートに包んでマイルドに表現していれば一考する余地はあったかもしれない。


 でもこんな話を聞いた後にじゃあ付き合ってみようか……とはならねぇよ。


 恋愛に興味云々は一旦置いといて、零子ちゃんには誠実さがまるで足りてないじゃん。



「流石に即答は酷いんじゃない?」


「ごめん。」


「やっぱすぐには恋愛に興味持てないかぁ。」



 違うよ? それ以前の問題だよ? 


 恋愛に興味ないからじゃなくて、君が誠実じゃないからさ。


 言わんけど。



「気長に武太君を攻略していくしかないみたいだね。」


「俺なんかより、もっと周りに目を向けた方が良いんじゃない? 他にも良い人はたくさんいるよ。」



 いっそ錬蔵を紹介してやろうかな。あいつだったら、零子ちゃんの犠牲になっても心が全然痛まない。


 だってキモいし。



「俺のクラスにも良い奴はたくさんいるんだよ。」


「えぇ? 武太君が好きだって言ってるのに、別の人を紹介しようとするの?」


「それもそうか。ごめんね。」


「まぁ、武太君が恋愛に興味出るまでならそれもアリ、か。」



 アリなのかよ。


 ホントそういう所だぞ。



「えーと、錬蔵って奴なんだけどさ。時々変な言動はあるが、懐は深いし女の子に優しいから零子ちゃんに合うんじゃないかと思う。」



 奴が女の子に優しいのは本当だ。キモいけど。



「じゃあ紹介してもらおうかな。」


「任せてくれ。」



 地雷処理完了。


 これで暫くの間は零子ちゃんの件で悩まされる事はなくなるだろう。


 すまんな錬蔵。俺の平穏の為に犠牲になってくれ。きっとお前なら零子ちゃんと上手く付き合えるよな?


 知らんけど。
























 翌日、自分の教室に入るなり錬蔵が近寄って来た。



「恋梨! 俺は今、猛烈にお前に感謝している!」


「何だよ急に。」


「勝手に俺のLIMEを教えやがってくれて本当にありがとうございます!」



 綺麗なお辞儀を見せる錬蔵はまるで社会人のように礼儀正しい。


 あの後、零子ちゃんに錬蔵のLIMEを教えてやったところ、二人は付き合う事になったそうだ。


 LIME交換から即付き合うとか急展開過ぎない?



「お礼に妹を紹介してやろう。目に入れても痛くない程の超可愛い美少女だから大切にしてくれよ?」


「いらん。」



 何言ってんだこいつ。お前の妹などいらないぞ。


 せっかく昨日上手い事地雷処理が完了したというのに、新たな地雷物件を押し付けてくるなよ。



「うるせぇ!! 俺の妹と付き合え。ちなみにおっぱいはGカップだ。」


「無理だって。」



 妹のバストサイズ把握してんじゃねぇよ。キモ過ぎるんだよ。


 つかデケェな……。


 一目見るだけならやぶさかではない。主に胸の方を。



「うるせぇ!! 既に妹はお前と付き合った気になっているんだから責任取れ!」



 は?



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