第16話

 7月23日。退院して1週間ほど経った今日、俺は野球場に来ている。準決勝に臨む仲間たちを応援しにきたのだ。相手は去年の優勝校。もちろん一筋縄ではいかない。

 1回の表。俺たちの守備から試合は始まった。

 先発ピッチャーはもちろん大場。

 大場の調子がいいのもあるが、野手もスライディングキャッチなどのファインプレーがあり、みんな輝いていた。

 野手の助けもあり、大場は何とか相手打線を抑えていた。

 一方で攻撃は、相手ピッチャーに苦しみながらも、ギリギリで1点を掴み取っていた。

 8回が終了し現在、1対0。このまま9回を抑えれば勝てる。


 そんな状況で、流れは一変した。

 ここまでずっと好投だった大場だが、先頭打者に軽くヒットを打たれると、味方のエラーやヒットの連続で1点を取り返されてしまった。相手の勢いは収まらず、そのままヒットが連続し、また1点。これで相手に勝ち越されてしまった。

 1点差で迎えた9回の裏。もうここで打つしか、勝つ方法はない。

 1人目のバッターは空振り三振。

 2人目のバッターはファウルフライ。

 たったの5球でもうツーアウト。相手のピッチャーに打つ手なしの様子だった。

 3人目のバッターは鮫島。

 ここで鮫島が打てなければ、俺らの夏は終わってしまう。

「打てーーー!!! 鮫島ーー!!!」

 俺はスタンドから全力で声を出した。久々に大声を出したせいで、喉が焼けるように痛くなった。

 それでも俺は叫んだ。

 打ってくれ。打ってくれ鮫島。

 静まった会場に、金属音が響いた。

 鮫島のバットに当たったボールは、綺麗な楕円を描いたが、飛距離が足りず、簡単にセンターのグローブに収まった。

 その瞬間、相手のベンチやスタンドから大きな歓声が沸き起こった。

 終わった。俺らの夏が終わってしまったんだ。

 相手の校歌が流れる中、俺は球場を後にした。泣き崩れる仲間と共に泣くことも、励ますことも俺には出来なかったから。

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