2-5(-3).「あまねくは屈さぬすべを持つ」
破片を後に引きながら転がり、勢いを殺して辛うじて停止。身を起こすと同時に飛びすさり、奥の暗闇へと身を隠す。
うち捨てられたデパート跡とおぼしい。棚や商品は多くそのままで、視界を遮る障害物として使えそうだ。
静寂の中、ガラスを踏み近づいてくる悠乃の声を、感覚が捉えた。
「《
こつ、こつ。
「あらゆるものは、それが望ましい形で在り続けるためのなすすべ、力を内包している。それを引き出し、強めるような空想が、わたしの得意とするもの」
至近距離になるまで息を潜め、声が
「(手応えなし、外したか!)」
何処に消えたか、位置を探る。引っかかったのは予想外の方向――上方、天井部。
「!」
「例えば“
ばしゅうっ!
握り込んでいた隠し玉、“壊し”ながら投げ上げたガラス片の力量放出を、天井に立つ悠乃はやはりすれすれで回避。背後の吹き抜けフロアへと全力後退する俺に爆発的な直線加速で追いすがると、わずか寸秒で肉薄状態を再構築してのける。
「コギト!!」
『
振りかぶられる手刀を前に、声を張り上げる。同時、脳裏で飛ばしていた
がぎっ!
およそ骨肉が立てるとは思えない硬質な衝撃が響き、交差させた腕の間で手刀が辛うじて
だが。
「《
とっさの対処としては及第点。たった一秒の延命が生死を分けることは確かにある。
平淡な声で言いながら、悠乃が品定めをするように灰晶の眼をまたたかせる。
「――でも。あとが続かないなら、だいたいはそこで終わり」
「…………っ!」
めき、ぴき。
悠乃の紋が放つ光を強めると、足下のフロアタイルが音を立てて
『空想強度が限界に近づいています』
わかりきってるだろ、そんなこと!
手刀がかける圧が不意に緩み、体勢が崩れた瞬間、胴狙いの蹴り上げが見事にクリーンヒットし
「知識と技術をおぎなうのにコギトを頼った、それじたいはいい判断」
「ぐ……!」
《
出力制限のハンデが効いているのか、悠乃が即座に追撃してくる気配はない。だが、感覚は階下から放たれる精確な視線をはっきりと感じ取っている。
緊張にひりつき、思考放棄という名の開放を要求してくる脳を叱咤し、対策を考える。
規定敗北ライン到達まで、残り二。時間はまだ三分の一が経過したばかりで、ここからタイムアップを狙うのは分が悪すぎる。一撃を当てる以外に道はないが、近距離は相手の間合いだ。
「(……あとが続かないなら、か)」
そう釘を刺された後で八方塞がりに向き合うのはなかなかきついものがある。
目を閉じ、痛いほど脈打っている心臓を押さえ付けるように深呼吸をした。
プロト・ホワイトの紋を起点、繰り返す鼓動の反響が俺の脳裏に周辺情報を
天然の突破口なんてものはそうはない。探す時間が限られているなら、当てにするのはなおのこと無茶無謀。平凡な高校生の身の上たる俺だって、それくらいはわかる。
となれば。
「自分でこじ開けて作る。――それしかないよな」
立ち上がりながら呟いた。運がいいのか悪いのか、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます