第十話 天使の少女



◆◇◆◇◆



 天使が病室を去ってから一ヶ月が経とうとしていた。少年は未だ、彼女の「気が向いたらね」という言葉を信じ、天使を待ち続けていた。淡い期待に胸を膨らませる毎日。しかし、天使は忙しいとも言っていた。天使は、人間とずっと一緒にいられないと、修行が終わると神様の元に戻らないといけないとも言っていた。期待しているのと同時に、もう来ないだろうという諦めの二つを抱いていた。


 そんなある日、不規則的なパタパタとした音が自身の病室に近づいてくる音を耳で拾った少年は、何事かとベッドから身を乗り出した。まだ看護師が来る時間には早い。誰が来たのかと、ソワソワしていると大きな音を立てて病室の扉が開かれた。扉の前に立っていたのは自分と同じぐらいの年の少女。淡い栗色の髪と、フランス人形のような青い宝石の瞳。少年はその美しさに息をのんだ。




「えっと、どちら様で……」

「忘れたの?ひっどいわね」




 少女は、ふいっと顔を逸らした後、少年に視線を戻した。少年は少女と目が合うと耳まで真っ赤にし、顔を手で覆った。少女には見覚えがあった。そして、次の少女の言動で確証に変わった。少女は、少年の前まで歩いてくると、手を差し出して傲慢な態度で笑う。

 もう、あの美しい翼はないが、少年は直感的に彼女だと察したのだ。



「わたしが、あなたの友達になってあげる」



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絵本の食べ方 兎束作哉 @sakuya0528

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