第六話 気が向いたらね



◆◇◆◇◆



「また、会いに来てくれる?」




 想像もしなかった言葉に天使は目を丸くした。そして、頭の中にあの老人の顔と少年と話した数時間の思い出が一気に押し寄せてきた。少年がこのベッドから離れられず、話し相手がいないことも分かる。それに、天使自身彼と話していて楽しかったし、名残惜しい。しかし、そう何度も天使と人間が会うのはいけない事だと天使は思った。種族が違い、また住む場所も違う。どれだけ話そうが彼とは友達になれないのだ。 



(わたしは、天使よ?それに、神様にお願い叶えて貰うんだから……だから……)



 複雑だった。


 天使はぎゅっと下唇を噛み締めた。天使には夢があった。神様に使える一番の大天使になるという夢が。たった一つのお願いは、神様のおそばにいられる強大な力を手に入れることだった。だけど、その願いが、思いがかすかに揺らいでいた。過去に、自分のために願いを叶えた天使は沢山いる。しかし、多くは人間のためにたった一つの願いを使っているのだ。もし仮に、少年や老人のために願いを使えるとしても叶えられる願いは一つなのだ。


 天使は少し黙った後、取り繕った笑顔で、「気が向いたらね」と返し真っ赤に染まった空に向かってその翼を広げた。そこで、もう一度少年の方を振返り少し黙ってから彼にこう投げかけた。



「友達、欲しい?」



 少年は目を丸くし、俯いた後こくんと首を縦に振った。眉をハの字に曲げて笑うので、どうせ叶わない願いだろう。と考えていることが天使に伝わってきた。そんな顔して欲しくて聞いたんじゃない。と天使は言いたくなったが、何も言わず病室を後にした。白い病室には夕日の赤と、彼女の残した白い羽がキラキラと舞っていた。




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