第四話 天使と少年
◆◇◆◇◆
白い壁、白い天井、白いベッド。何処までも白く同じ景色を少年は退屈そうに見つめていた。右を見ても左を見ても昨日と変わらない景色。唯一窓の外から見える空は、昨日とは違い青く澄んでいた。
「おじいちゃんの絵本……まだかな」
そう少年が呟くと、青い空が一瞬にして真っ白になった。突然のことで、少年は驚きのあまり口がふさがらずにいると青い空を覆った、白い何かは少年のいる病室の中に飛び込んできた。ふぁさっ……と白い羽が舞うと、ベッドの上に自分と同じぐらいの少女が少年を見下ろしていた。何処か不機嫌そうな顔をして少女は、少年を見つめた後わざとらしく大きなため息をついた。
「あなたね。あのご老人の孫って言うのは」
「君は?」
「はい、これ」
少年はまだ現実が受け入れられずにいた。さっきまで読んでいた絵本に出てきた天使そっくりの少女が目の前にいるのだ。興奮を覚えずにはいられない。しかし、驚きと興奮のあまり言葉が出てこないのだ。
天使の少女は傲慢な態度で、その白い腕で抱えていた絵本を少年に突き出すとベッドの上から降り病室の窓の方へすたすたと歩いて行く。少年はそこで、弾かれたように我に返ると少女に声をかけた。
「あの!君は天使様なんですか!」
「わたしは忙しいの。それに、見れば分かるじゃない」
「でも、片方しか翼が……」
そう少年が言いかけると、少女は足をピタリととめ少年の方にもの凄い形相で走ってきた。
「あなたの、おじいちゃんが木から落ちたのを助けたときにちぎれちゃったのよ!」
「そうなんだ……綺麗な翼なのに」
「そうよ。自慢の翼よ」
少年は申し訳なさそうに天使の片翼を見て頭を下げた。悪気がなかったことを少女はさとると、顔を上げなさいと今度は打って変わって優しい口調で言った。その言葉を聞いて、二三秒たってからようやく少年は顔を上げた。黒曜石のような綺麗な黒い瞳に、病弱そうな青白い肌、髪色も悪く灰色に近い黒色をしている。
そこで少女は病弱で外に出られないという老人の話を思い出し、ばつが悪そうに額に手を当て少し考えた後に、少年が横になっているベッドに腰をかけた。少女が帰らないことを察すると少年はふにゃっとした潰れた優しい笑みを浮べた。その笑顔が、あの老人と似ていて、彼が本当に老人の孫であることを完全に理解した。
「天使様、ありがとうございます。おじいちゃんを助けてくれて」
「別に。天使は人間を助けるのが役目だしね」
「それでも凄いよ。僕には、誰かを助けるどころか……助けがないと生きられないのに」
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