第36話 カイナ 詰問する

 カイナはモスを引き連れ、向かう先は――。


「やぁ、社長。景気はどうだい? いいよな。この俺様の領なんだから、良いに決まっているよな」


 カイナが訪れた先は、港に面した工場。

 そこの日焼けが眩しい社長にフレンドリーに話しかける。


「社長、この前は世話になったな。で、俺様に言うことはあるか?」


「え、ええ、あ、その、選挙での勝利おめでとうございます」


「おおっ、ありがとう!」


 カイナは途端に真顔になると、「チャンスは与えたぞ?」と呟いてから、軽く手を上げて、誰かに来るようクッと手首を曲げる。


 その合図を受け取ると、十人以上の兵士が続々と工場内に立ち入って来る。


「カ、カイナ様、なにをっ!? いったい!?」


 慌てふためく社長にカイナは詰め寄る。


「何を? 社長が一番分かっているのではないかな?」


「ほ、本当に何を言っているのか分からないのです!」


 社長は汗を滲ませ、懇願でもするかのように目に涙を浮かべる。

 そのとき、一人の兵士がモスに近づき、耳打ちし、何かを手渡す。


「カイナ様、やはり、こちらで間違いないようです」


 カイナは残念そうな表情を一瞬だけ見せながら神妙に頷く。


「社長。ここでシルバーバインを乾燥させ加工していたな」


 その言葉と共に、モスは受け取った袋から、乾燥したシルバーバインを見せる。


「こ、これは、確かに最近、新たな加工を頼まれて生産ラインに乗せていましたが……、でも、これは、ここの製造は海苔だったはず……。なぜ、こんなものが? 海苔の担当は、今、どうしてますか!?」


 悲鳴のような声を上げる中、カイナは兵士に海苔の製造に関わっているものを連れて来るよう顎で使う。

 すぐに兵士に拘束された3人の男がぶちのめされた状態で連れられてくる。


「カイナ様、モス様、抵抗されましたので少々手を出してしまいましたが、質問するのに問題はないかと思います」


 ハキハキと答える兵士は、かの青年、ジュークであった。

 モスは構いませんというように笑みを見せながら頷き、カイナは、


「拘束する手間が省けた。出来れば足の一本くらい折っておけば満点だったな」


 と、完全に肯定の言葉を投げかけてから、男たちを引き取った。


「おや、こちらの方は?」


 改めて男たちの顔を見たモスは、見覚えのある顔に少々の驚きを示した。


「誰だ、こいつら?」


「バルツァー卿のところで人さらいに加担していた者たちです。つい、先日も私に襲い掛かって来たので、記憶に新しいですな」


「なるほどね」


 カイナは男たちの前にしゃがむと、頬をペチペチと叩き、意識を向けさせる。


「お前らは誰の指示でシルバーバインを乾燥、加工していた?」


「う、うぅ、そこの社長の指示だ。オレたちは金が欲しくてやっただけなんだ」


 男は社長の方を見ながらすぐにそう告げた。


「ふ~ん。なるほどな。で、社長、どういうことか説明できるかな?」


 顔面蒼白にした社長は、力なく二、三歩後ろによろける。


「し、知らなかったんです。本当に! いや、彼らは知っています。数年前から働いてくれていましたから……、で、ですが、そんな。こんなことに手を染めていたなんて……」


 今にも倒れてしまいそうな社長。あきらかに演技ではない狼狽え方だった。


「そんな社長! オレたちを見棄てるんですか!?」


「うるさい! 巻き込むな!! カイナ様、本当なんです! 本当に神に誓って私はやっていない! 彼らの独断だったのです!!」


 だが、カイナの対応は冷酷だった。


「俺様は裏切るなと言ったな。覚えているだろう? そこにはもちろん、お前の社員たちも含まれる。部下の責任は上司の責任だ。お前が知っていようが知らなかろうが、指示を出したかどうだかは関係ない。俺様の信頼を裏切った。それが事実だ」


「そ、そんな……」


 社長は地面へと力なくへたり込む。


 カイナは構わずに、ジュークへと顔を向けると、


「全て押収しろ。証拠はもちろん。財産もすべてだ」


 ジュークはカイナの無慈悲な対応に疑問の声ひとつあげずに敬礼をすると、他の兵士にも伝え、作業に取り掛かった。


「この工場まで取り上げられたら、どうやって生活すれば……。お願いです。それだけは!!」


 社長は懇願し、カイナに縋りつくが、すぐにカイナの、まるで自分を道具程度にしか見ていないような、およそ人に向ける視線ではない冷ややかな視線を受けて、その手の力を抜く。


「うるさいぞ。この俺様の信頼を裏切っただけでなく、機嫌と時間まで煩わせようというのか?」


 カイナの右手には緑のマナが集まり、鏃を取り出す。


「さっさと、その薄汚い手を離せ」


 次の瞬間、鏃は凄まじい速度で海中へと放たれた。

 海底が見えるのではないかという勢いで海が抉られる様子を見た社長は、そのまま押し黙り、手は力なく離れた。

 

               ※


「カイナ様、あのような突き放す様な対応でよろしかったのですか? ちゃんと訳を話せばあの社長も納得してくれるかと」


「ふんっ、シルバーバインの加工によって、魔獣が海からやってくる可能性があるから、自粛して避難しろと? 確かにあの社長なら従うだろう。だが、あの社長が悪くない以上。理由不明で、イナゴ領主の謎の逆鱗に触れた。って方が再開したときに風評被害に悩まされなくて済むだろう。まぁ、その間の損失については、部下の管理も出来ていなかった社長の所為だからな。8割ほどの保証でいいだろう」


「カイナ様、そこまでお考えで。かしこまりました」


「それと、最後に打ち抜いた魔獣の死骸は見つからないように処理しろ。もちろん使える部位は売ってな」


「そちらもすでにジュークが動いております」


「結構!」


 そのままカイナとモスは男3人を引き連れ、領主邸へと戻った。

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