第35話 モス 感動する
「おい。起きろ。いつまで休んでいる気だ」
モスはすやすやと瓦礫の上で寝息を立てていたが、カイナによって叩き起こされた。
「はっ! 私としたことが職務中に寝てしまうとはっ!?」
「それはいい。災害支援はこれからだからな。だが、その前にモスの意見も聞きたい」
(あのカイナ様が私に意見ですと? それは、一大事です! 心して聞かねば)
「なんでしょうか?」
「お前が寝ている間に調査したのだが、ワイルドボアが占拠していた建物から、こんな物が出てきた」
パサリとモスの前に置かれた麻袋から、乾燥した植物の葉が漏れ出す。
「この植物は……、もしやっ!!」
「ああ、乾燥していて、特徴の茎の中の銀色が確認できないが、シルバーバインだろう」
「シルバーバインは法律で所持も生育も禁止されているはずです。しかも、乾燥までさせているということは」
「ああ、誰かがシルバーバインの特性を利用しようとしていたんだろうな」
シルバーバインは魔獣が好む植物で、その効果は凄まじく
そして、人間がそれを乾燥させ持ち歩く理由は1つ。
魔獣はシルバーバインを多量に摂取すると前後不覚となり、その後目覚めたあとにシルバーバインをくれた者になつくという魅了の効果があり、それを使って魔獣を不当に売買する闇商人が存在するとまことしやかに囁かれていた。
「もしやここ最近の魔獣の騒動はこれが原因? そして、ここが魔獣の保管場所だったのですな!! それで、前触れなく魔獣が現れた……、捕えていた魔獣が脱走したのですな……」
(ということは、私の村の誰かがこの悪事に加担していたということに……)
モスが不安そうな、申し訳なさそうな表情を見せていると、カイナはそっぽを向きながら、
「ふんっ、安心しろ、なんでも最近この村に商人を名乗る男たちが訪れていたそうだ。そいつらは空き地が多いこの村に目をつけて、保管場所に選んだんだろうさ」
「そのものは……」
「さぁな。これだけの惨劇だ。とっくに餌になっているだろう」
「黒幕に繋がる手がかりはなくなって、真相は分からず仕舞いですか……」
「いいや、そうでもないさ。さて、そこでモスよ。この人災。許せる訳ないよなぁ?」
「ええ、もちろんですぞ!」
「じゃあ、どんな手を使っても許されるよな」
怒りとこれからの復讐への愉悦が入り混じった表情を見せるカイナにさすがのモスもゾッと背筋を震わせたが、同時にこんな災害を起こした黒幕を許せない気持ちもあり、頼もしさも感じた。
「では、あとは私は災害支援を……と、言いたいところですが、想像以上の惨状、これではゴッダート家から出せる支援金ではとても」
「それなら、あれを使え」
「あれとは?」
モスでも知らない謎の財源でもあるのかと、小首を傾げる。
「俺様の部屋に腐る程、金銀財宝があるだろう。それを売って支援金に当てろ」
「へっ?」
予想外の言葉にモスにしては珍しく素っ頓狂な声を上げる。
「金は緊急時に使う為の最高の備蓄だ。どんな国でも価値があるからな。普段ため込んでいるのは愚かな領民が使わないようにしている為だ。こういうときの為にな。わかったらさっさと計算でもしろ。もちろん必要最低限に抑えろ。基本は俺様のポケットマネーなんだからな!」
実は前世の記憶を取り戻し、今までの豪遊を誤魔化す為の方便なのだが、そんなことを知らないモスは――。
(ぐも~~!!!!!! カイナ様、そこまでのお考えがあってのことだったのですな。今までは平和そのものだった為、このお方の真のお姿を私含め目にする機会がなかっただけ。これほどの名君、無駄に長く生きて来たこのモスでも知りませぬ! 老い先短いですが、この命尽きるまで付いていきますぞ!!)
※
それからのモスの快進撃は凄まじかった。
まるで怪我など無かったかのように元気になり、バリバリと働く。
カイナの財宝を選別し、いくつかの宝石商へと。
モスはカイナの指示で怪我をした箇所に過剰に包帯を巻いて訪れると、どの宝石商でも高値での買い取り額を提示してくれた。
あのいつもお世話になっているモスさんが、ボロボロになりながら売りに来た品を安く買いたたいては店の評判に影響を来すという思いからの高額提示で、まさにカイナの狙い通りの展開であった。
そうして手に入れた金で、被災地への食糧補給、生活物資の提供、簡易住宅を建て住居の保証を行った。
モスの不満は、それらの名声がカイナ・ゴッダートではなく、ゴッダート家の執事である自身に注がれることであったが、そのことを主に話すと、
「馬鹿か? おおっぴらに言ってみろ、俺様が中抜きして金や宝石を買っていたことがバレるだろうが」
と言って、頑なに自分の功績にしようとしなかった。
そんなところにも感動しつつ、モスは驚異の回復力を見せた。
包帯も取れ、傷もふさがり、なんだったら全盛期並みの調子の良さ。
破竹の勢いでモスの復興支援は続いた。
「さて、ようやくひと段落着きましたな」
モスはカイナに紅茶を注ぎながら口を開いた。
「ああ、そうだな」
「では、ご用意を」
モスは出かけ支度をすると、紅茶を飲み終わったカイナと共に外出した。今回の人災の黒幕を辿る為に。
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