第24話 カイナ 演説する
「あ、あー。皆さん、俺様はゴッダート領の領主。カイナ・ゴッダートだ。この度はアントリオン君発案の選挙というものに付き合わせてしまって、すまなく思っている。だが、これで、どちらの政治が正しいかハッキリと分かる良い機会だとも思っているのだ。
皆さんは、死ぬことと腹が減ることどちらが嫌かな? 俺様はもちろん死ぬことだ。何が何でも生き残る努力をしている。
では、人は何で死ぬ? もちろん貧困でも死ぬが、多くは自然災害や魔獣の被害によるところが大きいだろう。
俺様は、それらが起きないよう尽力してきた。もちろん、その為に高い税を取っているのは心苦しいことだが、安全には変えられない。
この中に他国に行ったことがあるものがどれだけいるのか分からないが、ここまで平和な国、そして領地はほとんどない。それがこのゴッダート領の最大の特色だと言ってもいいだろう。
商人がこれだけ多く来るのも、富裕層向けの商品が売れるのも、全て安心・安全があるからだ。そして、商人やそれを買う富裕層が多いということは、それだけ、他の商売も潤うということに気付いてほしい。
今の貧困は他国では貧困ではないのだ。生きるだけで精一杯の国もある。
俺様に投票すれば、安心と安全は守ることを誓おう。
あのアントリオン君にそこまで出来るかどうかを吟味して、投票を行ってほしい」
カイナは長々とした演説を毎日のように行った。
雨の日も風の日も、魔法でそれらを振り払い、聴衆の安全を言葉通りに守りながら。
その姿に、いくらか心を動かされる人々もいたし、富裕層の連中はすでに多大なカイナの恩恵に預かっていた為、今更、ぽっと出で、自分たちに利の無い政策をしようとするアントリオンを支持するはずもなかった。
一方アントリオンも演説もするが、カイナとは違い支持者を連れて街を練り歩き、「減税!」「減税!!」と訴えていたし、他領へのばらまき政策をやめるようにも吹聴した。
他にも領主の証明でもある武力を示そうと、魔法を行使し、巨大なアートを作っては子供たちの遊び場に提供したりと派手に動いていた。
アントリオンが領主となれば確実に貧民層は今より豊になるだろうと思わせる演説に、ゴッダート領の多くの若者が支持を表明した。
※
「アントリオン君はずいぶん派手にやっているみたいだな。魔法まで見せびらかせてしまって」
「ええ、唯一カイナ様からアドバンテージを取れたのが魔法が分からないというところでしたが、派手に使われておりますな」
「まったくだ。あれだけ派手に使えば、子供でも砂の魔法だと分かる」
「ですが、砂のアートは見事なものでしたぞ。このモス。久々に芸術に心動かされました」
「だったら、そっちの道に進めばいいものを。それともそこでも才能が認められなかったから、政治に移ったのか?」
(まるでドイツの独裁者みたいだな)
カイナは現代でも似たようなことがあったなと思い出しながら、嘲笑を浮かべる。
「選挙のあと、アントリオン様をお雇いになるのはいかがです? 庭師ももう高齢ですし、代替わりも検討して良いかと」
「庭師は確か、モスより年上だったか? 確かに検討の余地はあるな。砂の庭というのも綺麗なもんだしな」
「ええ、趣きがあるかと」
すでに負けることなど一切考えていない二人は、勝ったあとのことを相談し始めていた。
「まぁ、だが、盤石にはしておこう。モス、現在の支持率はどんな感じだ?」
カイナは独自に人を雇い、街角調査を実施。
その結果、
「カイナ様の支持率は現在約60%。アントリオン様は約30%。残りはどちらも支持しないや不明といったその他にあたるところですな」
「ふむ、それなら、もう少し俺様の支持率を下げないといけないか。意外と高かったな。そうなるとラーナ嬢は余分だったか」
頬杖を突きながら呟くカイナ。
モスもその意見に賛成のようで、「ですな」と頷く。
が、この場に異を唱える人物が一人。
「いいえ!! 低すぎます!! カイナ様なら100%でないとオカシイですわ!!」
来客用のテーブルをバシンと叩きながら、ラーナは立ち上がる。
「それに、そのアントリオンとかいうお方、ばらまき政策が愚の骨頂とか、まずは自領の領民に金を使えだのと好き勝手に!! 自領を守る為の他領へのばらまきだということになぜ気づかないのですかっ!!」
すでに来客用のテーブルは壊れそうだったが、気に留めるものはいなかった。
「ふんっ、気にするな。基本的に大金の使い方は大金を得たものしか分からん。それに貴様みたいに分かるものだけが分かってくれればいい」
「カ、カイナ様……」
ラーナは頬を赤らめるが、主にカイナの言う分かるものは、金持ちの連中という意味合いで、確かに、領主の娘というラーナもその一部に含まれているが、気持ち的な部分においては恋愛的なことは一切関係ない発言でもあった。
「せっかく来てもらって悪いが、ラーナ嬢は大人しくゆっくりくつろいで、俺様が勝つところでも眺めていてくれ」
(さて、こんな選挙より重要なことがあるが、そっちの首尾はどうだか?)
カイナはモスに視線を送ると、首を横に振る。
(ふむ、あまり芳しくないか。ならば余計に、アントリオン君には俺様の手の平の上で踊ってもらおうじゃないか。我が領民の為に。アントリオン君も本望だろうさ)
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