第9話 カイナ 陰謀する
「モス、子供を返しに行くんだったな」
カイナはモスに確認の意味も込めて質問を投げかけた。
「はい。本日の正午に。その後、2名はギルボー領のクリケット様のところまで送り届ける予定となっております」
「そうか、ならいい。それと、此度はいろいろ良くやった」
なぜかブスッとした態度だったが、カイナは、
(今回は子供が無事で良かったが、そもそも守れなかった時点で俺様の落ち度だ。だが、領主たるもの弱みを見せたらどうなるか分からん。普通の領主でさえそうなのだ、イナゴ領主と忌み嫌われる俺様にそんな隙が出来たらどうなることか。ここは遠回しに……)
「モス、貴様には褒賞を出そう」
引き出しから金の入った袋を6つ取り出し、それをそのまま、無遠慮に投げる。
魔法が掛けてあったそれらは空中で散らばることもなく、モスの腕に収まった。
「カイナ様、こちらは?」
モスはなぜ6袋なのか不思議に思っているようで、態度には表さないがついつい質問を口にしていた。
「金一封ならぬ、金六封だな。今回は6倍の仕事をしたという意味だ。好きに使うなり配るなりすればいい。どうせ領民の税金だ」
「……好きに配る。なるほど。かしこまりました」
どういう意味に取ったかは不明だが、モスならば正しい意味に取ったであろうとカイナは信頼していた。
モスが席を外すと、カイナは窓から外を眺めた。
「さて、もう一人裁くべきヤツが居たはずだな。他国だから、あまり派手にできないのが難点だ。政治的な話になったら面倒だし。そうだな。少しクリケット君と相談させてもらおうか」
ニヤリと悪魔のような笑みを浮かべたカイナは、さっそく魔法を使い、窓から抜け出した。
※
「やぁやぁ、クリケット君。久し振りだ」
馬車よりも早く隣国へたどり着いたカイナはクリケットへと挨拶を済ませる。
「おお、カイナ。キミが直接来るとは思わなかったぞ。酒は居るか? 用意させるぞ」
歓迎ムードのクリケットを制止し、カイナはクリケットへ耳打ちする。
「それは、本当に可能なのか? 初めて聞いたぞ?」
「ああ、もちろんだ。俺様とクリケット君が力を合わせれば可能だ」
「だが、もし、成功したら、とんでもないな」
「そう言うな。こう考えてみてくれ、成功したら、今まで野放しになっていた悪も裁けると」
「ふははっ! 領地では一番の悪人がよく言う!!」
「はははっ。その点は俺様がクリケット君に大きく劣るとこなのは認めよう。よく自領を守りながら善人として親しまれるな」
「ただ、領民に嫌われたくないビビリなだけさ」
二人はひとしきり笑いあうと、
「さて、それじゃあ」
「ああ」
善人な領主として領民から親しまれるクリケットだが、このときはカイナに負けず劣らずのあくどい笑みを浮かべていた。
「ふむ、まずは水を熱湯に変えれば良いのだったな」
クリケットとカイナは、クリケットの領邸からとある方向を見ながら、まるでレジャーにでも赴いているかの様相だった。
「マナよ。水を燃やせ! エバポレート!!」
クリケットの周囲には赤い光が集まり、掛け声と共に遥か彼方へと飛んで行った。
ギルボー領の領主クリケット・ギルボーは炎の魔法の使い手であり、カイナと同等クラスの魔法の使い手であった。
もし、カイナとクリケットが同じ国であったなら、2人で国を取れたかもしれないし、もしくは強すぎるとして危険視されていたかもしれない。
そんな二人の悪だくみを止められるものはこの世に存在しなかった。
「ああ、そうすると上昇気流ってのが起きる」
「上昇気流?」
「ああ、俺様もよく分からんが、そういう自然現象だ。で、そこに俺様の風で回転を加えてやれば」
遠くの方で竜巻が巻き起こり、周囲の建築物が巻き込まれていく。
そこには30年前の建築様式の建物だけが主に巻き込まれていた。
「これくらいの規模の竜巻が限界か」
カイナは少し不満そうにしていたが、クリケットは対照的にガハハと笑い上機嫌であった。
「おおっ! すごいな。カイナよ。まさか自然現象を魔法で起こせるとは! これは水がプールごときでなければ、もっと大きなものも起こせるのか?」
「ああ、そうか、あれが限界じゃないわけか」
「無論だ! これなら、海から万が一魔獣が攻めて来ても楽勝だな」
「ふむ、それならまだまだ悪いことが出来そうだな」
そんなカイナのセリフにブハハッとクリケットは思わず吹き出していた。
「カイナよ。悪いことと言うがどうせ領民を守ることにしかしないだろう。それに今日だって、誰も死なないように全員屋敷から避難させてから行った訳だしな」
「ふんっ。買いかぶり過ぎだ。俺様はクリケット君に害が及ばないようにしただけだ」
「そうか、それは恩に着るぞ。まぁ、オレもあいつはどうかと思っていたから良いお灸を据えられただろう。それに――」
二人は同じことを考えていたのか向かい合うとニヤリと笑い、
「証拠を残さず、自然災害として攻撃できるようになったな」
「ああ、このやり方は回りくどいが、そこが一番の利点だな」
「もし、必要になったら、力を借りるぞ」
「もちろんだ」
この竜巻によって、クレストの虐待趣味が領民にバレ、一気に信用を落としたのは言うまでもなかった。
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