はなまる喫茶ことん堂 

「素敵な本をいただいちゃったなぁ」

「よかったね。個性的で素敵なな店主だったよ」


 小一時間鈴蘭堂で本を吟味した帰り道、一階にある飲食店に2人は訪れていた。スミレとマチは、『はなまる喫茶ことん堂』でくりぃむそーだを2人で眺めていた。


 ほんの数刻前。


「ここは喫茶店……カフェーともいうのかしら?」


「えぇ恐らく。マスターさんは不在なのでしょうか?」


 2人が出入り口で固まっていると、


「やぁ。また会ったね。華忍さん?僕はこの喫茶店のマスターでもあるんだよ」


 そう言われてマチは非常に嫌な顔を、けれど表面上には出さずに笑顔でこう答えた。


「またお会いできて光栄です。さっきぶりですね」


 なんの動揺も見せずにまぁそうだろうなと言ったら表情のマチと、驚きが隠さず、ローツインが兎の耳の様に立ち上がりそうな勢いのスミレ。


「なんだか深みのある言い方だなぁ。まぁいいや。ゆっくり食べいってくれ。……ごゆっくり」


 そして今、2人の目の前には浪漫溢れる緑色の液体の上に白い氷。そして赤いチャームポイントが似ている飲み物。そう、クリームソーダが置かれていた。


「わぁ!見て、マチ!くりいむそぉだ、素敵」


「そうだね。たんさん、というのは初めて飲むからなんだか未知の気分だ」

 

 スミレの目の前には自国では珍しいパチパチと音を鳴らす液体と、その上に乗ったアイスクリーム。くりぃむそーだを物珍しそうにまじまじと眺めている。マチの目の前には炭酸部分が青色のくりぃむそーだがある。


「それじゃあ、いただきます」


 マドラーでアイスを1口咀嚼し、メロンソーダを1口飲む。

 その瞬間、スミレは目をぱちぱちと瞬かせ。


「美味しい……!」

「……!」


 彼女を見届けた後、自分もと1口くりぃむそーだを食べるマチ。スミレは美味しさに笑顔になり、マチは驚いた表情で口元を抑えている。


「……マチ、炭酸に驚いてるの?」


「な、なんていうんだろうね。これは……」


「お嬢さん、良ければあなたのくりぃむそーだ。1口くださいな」


 スミレは眉を下げて呆れたように息を吐けば、マドラーでアイスを人掬いしてマチの口の前に差し出す。彼は満足そうに口を開き食べさせてもらう。同時に、彼も同じようにアイスを差し出す。彼女は恥ずかしそうに口を開け、恥ずかしさからか、彼から少し目を逸らしてそれを咀嚼する。


「どの味も美味しいね」


「あなたと一緒にいるからそう感じるんですよ」


「そうだね」


 2人でにこやかに、そして幸せな雰囲気を味わってる最中、突然大きな咳払いが聞こえてくる。


「おっほん!」


 2人は驚いて声のする方向に視線をむける。

 すると、そこには銀のトレンチを持つナルキスの姿があった。


「ほら、これ。よかったら食べて」


 そういってテーブルに、羊羹と団子をマチとスミレの前に置いた。


「でも、これ頼んでないですよ?」


 スミレがそういうとナルキスは、ふんっと小さくため息をついてから説明した。


「前のここのマスターの友人が、ことん堂で笑顔になってくれたお客様には、こうやってデザートをつけていたんだ。この仕組みのことを彼女は、アイスマイルって言っていたよ」


 そういって、何処が遠くを見ているナルキス。2人は、なんとも寂しそうなナルキスを見て、「ありがとうございます」と一礼した後、それを平らげたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る