第8話嫌な想像が払拭できない

尾灯の家に向かい、いつものように勉強を教えること二時間が経過していた。

「それにしても…指輪なんて誰にもらったんですか?しかも高校生が買うにしてはガチっぽいものですし…」

尾灯は僕から奪い取った指輪をまじまじと眺めながら口を開く。

「誰って…いつもみたいに奏だよ…」

僕からの答えを耳にした尾灯は嘆息するように息を漏らすとこちらに向き直る。

「やっぱりそうですよね…でも…」

尾灯はそこまで口にすると首を左右に振って口を噤む。

「言いたいことはわかるけど…それでも良いと僕は思っているから」

「それじゃあ奏さんの成長には繋がらないと思いますけど…」

「そうかな?依存だって悪いことじゃないと思うけど。そこから発展する関係だってあるだろ?」

「奏さんと恋人関係になりたいんですか?」

「そうは言ってない。奏が自ら一人で進みたいとか、もしも他の関係を求めてきたら頷くかもしれないけど…」

「それって端的に言って奏さんを好きってことですよね?」

「どうかな…僕にも自分自身の正直な気持ちがわからないんだ」

「はっきりさせないと…その内、身近な女性が離れていくと思いますよ」

「そうなったら嫌だな…ちゃんと考えておくよ」

「そうしてください」

雑談もそこそこに再び勉強を進めていくと時計は十八時近くを指していた。

切りの良いところで勉強の手を止めると尾灯はポケットから指輪を取り出した。

「仕方ないので返しますけど…私の前では付けないでください。あまり気分が良くないので…」

「わかったよ。返してくれてありがとう」

指輪を受け取るとそのままポケットにしまう。

尾灯の家を出てすぐにポケットから指輪を取り出すと定位置にはめ込んだ。

そのまま帰路に就くと夕食を取って風呂に入り軽くゲームなどをして過ごす。

ダラダラとした時間が過ぎていくとスマホが不意に震える。

「尾灯に聞いたけど…奏ちゃんから指輪を貰ったんだって?許せないねぇ〜」

メッセージの相手は永野鏡だった。

二人は共通の相手に好意を持っていることにより通じ合っているようだ。

「いや、まぁそうなんですけど…そういうのじゃないですから」

何も答えになっていない言葉を羅列して有耶無耶にしようとしていると、すぐに返事が来る。

「私も何かあげたいな。クリスマスプレゼントに贈り物をしてもいいかな?」

「全然良いですけど…高価なものはやめてくださいね?僕も贈り物するので…お互いのバランスが取れた物にしてください」

「わかったよ。とにかくそろそろ受験も控えているし。私はあまり積極的なことが出来ないけど…クリスマスぐらいは少しでいいから時間をください」

「はい。いつでも声を掛けてください。僕も受験の邪魔にならないように声を掛けるので」

「ありがとう。じゃあまだ勉強の途中だから…またね」

永野からのメッセージにスタンプを押してやり取りを終了させるとスマホを充電器に差し込んだ。

そのままベッドに横になるとこれからの身の振り方を考える。

このまま有耶無耶に進んで全員が僕から離れていく嫌な想像を払拭することも出来ずに眠りにつくのであった。

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