第7話奪われた指輪
罰ゲームで左薬指に指輪をはめ込まれてから数日が経過していた。
「先輩。それって何かのジョークですか?」
左手をまじまじと見つめる尾灯は怪訝な表情を浮かべていた。
「まぁ…何ていうか…それに近いのかな?」
「何の目的があってそんなことしているんですか?女性を避けたいんですか?」
「僕にはそういった類の思惑はないよ」
「僕には?誰かに強制させられているんですか?」
「………」
僕はそれに黙りこみ頷くこともなく無表情を浮かべていると尾灯は探るような言葉を口にする。
「同級生ですか?」
「………」
「上級生ですか?」
「………」
「まさか…下級生!?」
「………」
奏には誰にも言うなと秘密を強要されたわけではないのだが…
何故だか僕は誰にも言いたくないと思ってしまう。
「答えてくれないのであれば…私にも考えがありますよ?」
少しだけ怖い言葉を口にする尾灯に苦笑していると彼女は笑顔で首を左右に振った。
「別に怖いことしようってわけじゃないですけど…それでも考えがあるってだけの話です」
「考えって?なにかな…?」
「私は一応…先輩の命の恩人なんですよね?」
「そうだね…」
「じゃあ私のお願いですから。それを外してください」
「………わかった…」
奏には悪いが罰ゲームを律儀に守るよりも尾灯への恩の方が大事に思えてならなかった。
指輪を外してポケットにしまおうとしていると尾灯はこちらに手を差し出してくる。
「なに…?」
「それ。ください」
「え…だめだよ…」
「いいですから」
尾灯は無理矢理に指輪を僕からぶんどると自分のブレザーのポケットにしまう。
「もしも…この指輪を渡してきた相手と付き合うことになるのであれば…その時は言ってください。ちゃんと返すので…」
「うん…わかったけど…返してほしいな。今のところはそんな予定ないけど…それをくれた相手に悪いだろ?」
「失くしたとでも言っておいてください。とりあえず家に帰りましょう。家庭教師をお願いしますね?先生っ♡」
尾灯の最後の言葉に照れくさそうに鼻を鳴らすと僕らは揃って尾灯の家へと歩き出す。
「そろそろどうですか?身体の関係持ってみます?」
尾灯は冗談でも言うように悪戯な笑みを浮かべて僕に問いかける。
「冗談ならたちが悪いぞ?」
「冗談じゃないんですけどね…」
「それはそれで…問題だろ…」
「私じゃ嫌なんですか?」
「そんなことは…でもとりあえず今日は勉強だろ?家庭教師の日だし」
「そうですね…そうやっていつまでも逃げる気ですか?」
「逃げるなんて人聞き悪いぞ…誠実な態度を取っているつもりなんだが…」
「時には乱暴に扱って欲しい時だってありますよ…」
「恩人にそんなことは出来ないよ」
平行線な会話が続く中で僕らは尾灯の家へと到着するのであった。
次回。
尾灯動く…
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