第4話過去に遡ること二年

他人を好きになることに理由などいらないと何処かの誰かが言っていたが…。

確かにその通りなのかもしれない。

それでも理由があって他人を好きになるパターンだってあるだろう。

きっと奏の場合は後者に該当するのではないだろうか。

はっきりと聞けたわけではないので憶測でしか無いのだが…。


過去に遡ること二年。

中学三年生の僕は現在通っている高校の受験のため校舎を訪れていた。

同じ様に同学年の子供たちが同じ校舎で試験を受ける。

同じ中学から一緒に受験に来る生徒は居なかった僕は多少なりとも緊張をしていたし心細かったのを覚えている。

会場に到着してお手洗いを済ませると教室に向かう廊下で誰かしらの受験シートを発見してしまう。

受験シートがないと試験は受けられない決まりになっているため、これを落とした人はさぞかし心配になっていることだろう。

そんなことは同じ受験生なら誰でも想像できることだ。

受験シートの番号を確認した僕はその番号が張り出されている机を探した。

今思い返せば係の先生に手渡せば簡単に解決したことだろう。

けれどあの日の僕は少なからず冷静ではなかったはずで…。

がむしゃらに受験シートと同じ番号の机を発見するとそこに座っていた女子生徒に声をかけた。

「あの…これ。落としてますよ」

怪訝な表情で僕の顔を見た彼女は一瞬にして顔を青ざめた。

「うそ…!ありがとうございます!」

深く頭を下げて感謝を告げてきたのが奏だったわけだ。

「絶対合格して同じ高校に通ってください!お礼をしますのでお名前を聞いても良いですか?」

お互いが自己紹介を済ませると他の受験生の邪魔になると思ったので僕は教室を退室していく。

そして試験が始まり、僕らは同じ高校に通うことになったのだ。


奏と同じ高校に通うようになり、彼女は入学式の日には僕を見つけ出して声を掛けてきた。

「同じ高校に通えたね。秋くんって呼んでもいいかな?」

始めはこの様にお淑やかで気安い感じで声を掛けてきた奏だが…。

時間が経つとともに彼女の発言は過激なものに変わっていく。

「今日のパンツは何色かな〜?」

高校二年生になった現在の彼女は完全に変態発言を繰り返す様になっていた。

でも、どうやらそれは僕の前だけらしい。

「無理して変態発言しなくてもいいんだぞ?誰も求めていないから」

「無理してないし!」

反射的に強がりのような言葉を口にして顔を赤らめた奏に苦笑する。

「そうだ。放課後空いてる?」

だが彼女はすぐに用事を思い出したそうで話題を切り替えた。

それに相槌を打つように頷くと彼女は提案をしてくる。

「駅前に新規のカフェができたんだって。友達が彼氏と行ったらしくて…その…すごく雰囲気が良い店なんだってさ…」

「ふぅ〜ん。そこに行きたいって話?」

奏はそれに頷くので僕も同じ様に数回頷く。

「分かった。じゃあ放課後にね」

「やった♡ありがとう」

丁度鳴った予鈴に従うように僕らは教室へと戻っていく。


午後の授業を受けると奏との放課後デートは始まるのであった。

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