崇高な愛 5
ロミーは、フィーネの信頼できる側仕え、けれどもフィーネの下僕でもなんでもない。彼女には彼女の生活があり、フィーネはロミーを雇っているに過ぎない。
雇い主としての資格を失ったら、ロミーが手のひらを反すのだって当たり前のことなのだ。だから、フィーネは、今もこれからもロミーの評価を変えてはいけないと思っている。
「フィーネ様。私は一つの物事に集中して極めることができるフィーネ様の才能もとても尊いものだと思っていますよ」
飲み終わった空のティーカップを下げつつ、ロミーは少し辛そうに言った。言われてから、ベティーナに嫉妬しているような言葉を言ってしまったと気が付いて、笑顔を作って謝罪した。
「ごめんなさい、ベティーナをうらやましく思っているというのは訂正します。私は、私だもの、ロミーのような素敵な側仕えもいてくれているものね」
「フィーネ様……勿体ないお言葉です」
ベットから出て、いつもの動きやすさ重視の軽めのドレスに着替えさせてもらう。テキパキとコルセットを閉めて、ボタンを留めるロミーにそういえばと考えを巡らせた。
「ロミー、貴方、フィアンセとの結婚はもう時期ではないですか?」
「ええ!来年にでもと考えています」
「では、そろそろ、結婚式のドレスなんかを作り始めているのよね」
「はい。でもいざとなると迷ってしまって……」
「素敵ね、結婚の醍醐味じゃない」
「そうは言いますけれど、本当に悩んでいるのですよ!フィーネ様!」
「ふふっ、気に入ったものができたら、見せてくださいね。髪飾りは私が送りたいですから」
「それは……恐れ入ります。私は素敵な主に恵まれて幸せ者です、フィーネ様」
感慨深そうに言う彼女の反応を見ても、フィーネがフィアンセと結婚できずに庶子に落とされる計画を彼女が知っているようには思えなかった。
……それに、よく考えれば可笑しなことである、平民で妾のビアンカが王宮へと出向くことや、キースリング侯爵家という格上の相手とベティーナが交流を持とうとしていることも素直に私に報告をしている。
その点も鑑みればロミーは、フィーネとベティーナの立場を入れ替える、計画のことを知らないのだろうとフィーネは踏んだ。
別にフィーネは、そのことを知るためだけにロミーのフィアンセのことを口に出したのではなかった、きちんとお祝いの品も送りたかったし、その話はいつかしようと思っていたので、丁度良かったのでロミーの反応を見ることにしたのだった。
ドレスの着付けが終わって、ドレッサーの前へと移動して、いつものハーフアップにロミーに髪を整えてもらう。
昨日、カミルと話をしながら考えたことなのだが、立場を入れ替える計画の中核は、ベティーナの行動では無いと考えられる。本命はビアンカの方なのだ。
ビアンカは、フィーネの母親であるエルザが死亡してから、着々と、社交界にエルザの名前を使って参加していっているのだと思う。
そして、あのデビュタントの場で、エルザの娘は、ベティーナだと示すことによって、立場の入れ替えは完成する。それを阻止するには、フィーネが貴族ではなくなり不遇の扱いを受けることになる事をよしとしない、王族、もしくはそれ以上の力を持つ者の支持が必要になってくる。
昨日の時点では、それを示すには魔力の量を示すことが一番だとカミルと結論付けたのだが、タイムリーなことに、ベティーナが魔法の勉強会に今日赴く予定がある。
それに、ベティーナには魔法の才能があるらしいのだ。それが、彼女の平民という生まれをごまかせて貴族の間でも披露できるほどのものであるのならば、フィーネはどう頑張っても魔力を示すどころか、調和師の家系で魔法が使えないフィーネより、貴族の魔法に劣らない魔法を使えるベティーナの優位性を披露してしまうことになる。それでは、フィーネはやり直しは失敗してしまう。
……なんで、昨日の時点で気が付かなかったのかしら……そんな話も聞いたことがあったはずよ。もっとしっかりしなきゃダメね。
自分ののんきさに呆れて、鏡に映る自分自身をにらんでいると、ロミーがふと鏡を覗き込んできて、口を開く。
「可愛いお顔が台無しですよ、フィーネ様」
『そうだよ、怖い顔』
ロミーの言葉に続いて、背後から、カミルが言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます